ispace(アイスペース)は「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンに掲げ、人類の生活圏を宇宙に広げ持続的な世界を実現するべく、月面開発の事業化に取り組んでいる次世代の民間宇宙企業です。ispace(アイスペース)グループは、ispace(アイスペース)及び連結子会社であるispace EUROPE S.A.(ルクセンブルク大公国)、ispace technologies U.S., inc.(米国)、株式会社ispace Japan(日本)の計4社で構成されております。
<ビジネスモデルについて>
ispace(アイスペース)グループは、現在自社にて開発中のランダー及びローバーを用いて、1.ペイロードサービス、2.データサービス及び3.パートナーシップサービスを提供することを、ビジネスモデルとしております。
1.ペイロードサービス
月に輸送する物資である顧客の荷物(以下、「ペイロード」という。)をispace(アイスペース)グループのランダーやローバーに搭載し、月まで輸送するサービスを提供します。本サービスには、ロケットの打上げから月面へのペイロードの輸送は勿論のこと、打上げの約1~2年前頃を目途に開始される、顧客のペイロードをランダー及びローバーに搭載するための技術的なアドバイスと調整、更には月面到着後の実験や、これらに関連するデータ通信等に係るサービスの提供まで含まれます。ispace(アイスペース)グループでは、基本的に1機のランダーによる1回の月着陸及び月面探査のプロジェクトを「1ミッション」と定義し、ミッション単位で事業を運営しております。ispace(アイスペース)グループでは、初の月面着陸ミッションとなる2022年のミッション1及び、続く月面探査ミッションとなる2024年(予定)のミッション2を、技術実証ミッションとして位置付け、これら2ミッションを総括して「HAKUTO-R」プログラムと呼称しております。
ミッション1およびミッション2において、ispace(アイスペース)のランダーはSpaceX社のファルコン9ロケットにより打ち上げられ、成層圏を超えた宇宙の比較的地球に近いポイントまで運搬された後、ロケットから放出され、ランダー自身で燃料噴射による軌道制御等を繰り返した後、月遷移軌道と呼ばれる軌道へ入り、約4ヵ月の期間をかけて月の周回軌道へと入った後に月面着陸をします。着陸後はローバー(ispace(アイスペース)自身の開発ローバーはミッション2以降で輸送する計画)等の一部の稼働ペイロードはランダーから放出され、また一部のペイロードはランダー内部に搭載されたまま、月面での観測活動等を行い、データ収集等を行います。
ミッション1では、取得したデータはispace(アイスペース)のランダーを経由して地球に伝送される計画であり、月面におけるミッション期間は、太陽光エネルギーをランダー及びローバーが獲得可能な、月の日中時間(約14日間)を計画しておりました。なお、ロケットから放出された後、ミッション完了までispace(アイスペース)が中央区日本橋に開設いたしましたミッション・コントロール・センターにおいて、人工衛星のミッション・オペレーションの知見を有するispace(アイスペース)の従業員(ミッション・オペレーション・グループ)により制御されました。
図1:提供サービスのイメージ図
本サービスは、ペイロード重量に応じて1kg当たりの価格を顧客に課金する料金体系(注1)であり、ロケット打上げの1~2年前の本契約時からロケット打上げまでの間に、その全額が一括若しくは複数回に分割されて入金されます。宇宙開発分野においては、ミッションのための開発コストを負担する場合等、支出がミッションの1~2年前から発生することが多いことから、この様な打上げの1~2年前から入金が発生する契約体系は、当該分野において比較的一般的な商慣行となっており、ミッション1及びミッション2の契約締結済み顧客だけでなく、今後契約締結を進めていくミッション3以降の顧客との間でも同様の契約体系を基本とする予定です。また、売上の計上方法につきましては、ロケット打上げの1~2年前からペイロードの仕様やispace(アイスペース)ランダーとのインターフェースの調整等のエンジニアリング検討の提供が開始されることから、本契約以降、ランダーが月へ到着しミッションを完了させるまでの期間にわたって、履行義務充足に応じた売上計上がなされる想定となります(注2)。
ミッション1では自社で開発したランダーを月面に着陸させ、顧客ペイロードの月面への輸送や、顧客の要望に応じた月面データの取得等のサービスを実現することを試み、事前に設定した10個のマイルストーンの内、Success8「月周回軌道上での全ての軌道制御マヌーバの完了」迄を完了しました。ミッション2では、ミッション1で得られたミッションデータを基に改善を行うことで月面着陸の成功を目指し、更に自社で開発したローバーを月面で走行させ、月の多様な情報を取得するための月面探査を行う予定です。ispace(アイスペース)グループが開発するランダー及びローバーの外観は図2のとおりで、基本的に有人を想定しない、ロボティックス(無人)ミッションを想定しております。
ミッション1及びミッション2で使用するRESILIENCEランダーは、最大30kgのペイロードを運搬可能な設計となります。一方、2026年(予定)のミッション3以降で使用するAPEX 1.0ランダーは、この設計を拡張させ、足許最大で300kg、将来的には最大500kgのペイロードを運搬可能な設計へ変更する予定であり、既に開発に着手しております。また、SBIRの補助金120億円の交付決定を受け、ミッション6以降での利用を目指したシリーズⅢランダー(仮称)の開発も開始しております。シリーズⅢランダー(仮称)は、APEX 1.0ランダーと同様に最大500kgのペイロードを運搬可能な設計を想定しており、日本を開発拠点としつつ、米国のみならず世界中のサプライヤーからの柔軟な部材調達を可能とすることで開発コストの低減を目指しています。
ミッション4以降は、原則として年間2回、さらに中長期的には年間3回のミッションを通じて、高頻度にランダーでの月面着陸とローバーでの月面探査を実施することで、顧客荷物の月輸送や、顧客の要望に応じた月面データの取得等のサービスを行う、安定的な商業プラットフォームを構築することを目指しております。特に2020年代の後半にかけては、ペイロードサービスによりもたらされる安定的な収益を基盤としながら、高頻度ミッションにより取得したデータを解析・高付加価値化したデータプラットフォームを構築し、顧客が必要とする情報にアクセス可能なサブスクリプションモデルのビジネスを展開することでispace(アイスペース)事業の更なる成長を目指してまいります。また、データプラットフォーム構築のための先端開発投資として、データ取得のためのセンサー開発、データ解析、水資源探査、輸送サービス向上等を順次実施していく予定です。
ispace(アイスペース)初の実証ミッションとなる2022年のミッション1では、全体で約12.43kgのペイロードを輸送しましたが、その内の10kgについてはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイの政府宇宙機関であるMohammed Bin Rashid Space Centre(以下、「MBRSC」という。)との間で月面探査ローバーの輸送を、日本特殊陶業株式会社との間では固体電池の輸送に関するペイロードサービス契約を締結しております。また、カナダ宇宙庁が推進する月面技術開発、宇宙空間での実証、科学ミッションを支援する月面探査加速プログラムであるLunar Exploration Accelerator Program(以下、「LEAP」という。)に採択されたカナダの民間企業であるMission Control Space Services(以下、「MCSS」という。)との間で人工知能のフライトコンピューター、同じくカナダの民間企業であるCanadensys Aerospace Corporation(以下、「Canadensys」という。)との間でカメラのペイロードサービス契約を締結しております。その他、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」という。)との間で変形型月面ロボットのペイロード輸送を合意し、2021年4月に本契約を締結しております。また、2024年(予定)のミッション2では全体で10.5kgのペイロード輸送を計画しており、高砂熱学工業株式会社の月面用水電解装置、台湾中央大学の深宇宙放射線プローブ及び株式会社ユーグレナの微細藻類培養装置を輸送するペイロードサービス契約を締結しております。さらには、2026年(予定)のミッション3ではアメリカ航空宇宙局(the National Aeronautics and Space Administration(以下、「NASA」という。))のペイロード約95kgを輸送する予定であるほか、米国民間企業であるRhea Space Activity社、欧州宇宙機関から支援を受けたルーマニア民間企業であるControl Data Systems SRL社とも本契約を締結しております。
(注1) 本書提出日現在のispace(アイスペース)の価格設定としては、ランダーに搭載するペイロード価格として月面まで輸送する場合は1.5百万米ドル/kg、月周回軌道上まで輸送する場合は0.5百万米ドル/kg、ローバーに搭載するペイロード価格として、3.5百万米ドル/kgを基本価格として設定しています。なお、ispace(アイスペース)が行うペイロードサービスの単価については既に確立した水準は存在しないことから、契約相手方との関係や競合相手の状況によっては、ispace(アイスペース)が希望する水準での価格設定を行えない可能性があります。一方で、ペイロードの技術要件等の諸条件によっては、上記以上の価格での契約締結となる場合もあります。
(注2) 具体的な計上方法としては、ミッション1については原価回収基準を適用いたしました。ミッション2及びミッション3については、原則として原価回収基準を適用する見込みです。ミッション4以降の会計方針については会計監査人との協議を適宜実施しながら検討中となりますが、契約時からミッション完了時までの期間にわたり、原価の発生割合により履行義務の進捗度を見積る方法により売上計上することを想定しております。
図2:ispace(アイスペース)が開発する月着陸船(ランダー:左)と月面探査車(ローバー:右)(それぞれの縮尺は異なります)
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2.データサービス
本書提出日現在において売上計上の開始には至っておりませんが、ispace(アイスペース)は将来的にデータサービスを主要サービスの1つとして提供する予定となります。顧客自身がペイロードを準備の上、ispace(アイスペース)に輸送を委託し、月面や月周回軌道から地球へ試験データをフィードバックするispace(アイスペース)のペイロードサービスを活用した直接的なデータ収集に加えて、顧客がispace(アイスペース)のペイロードを利用してデータ収集を行い、地球へその結果をデータとして送り返し、解析の上、次なるR&Dへ活用したいというニーズが確認されています。 ispace(アイスペース)ではこれをデータサービスとして定義しており、LEAPに採択されたカナダの民間企業であるNGC Aerospace Ltd(以下、「NGC」という。)、スウェーデン民間企業、米国民間企業であるRhea Space Activity社と契約を締結しておりますが、売上の計上はミッション2以降を想定しております。
① 足許で需要が顕在化すると見込まれる、ミッションを通じたデータ取得サービス
当面の間(足許から2026年頃まで)は、ミッションごとに、ispace(アイスペース)自らが開発・購入するデータ計測機器やカメラ機器等(インターナル・ペイロード)を輸送し、主に月のデータを取得し、時には顧客の特定のニーズに合わせて取得するデータも都度アレンジしつつ、取得したデータを顧客に対して提供する予定です。またデータ提供だけではなく、(1)データ取得前の取得に関する技術コンサルテーションや運用計画、(2)取得後にデータを地球にフィードバックするための運用(電力・通信の運用)等もサービスの一環として提供することを目指しており、ispace(アイスペース)が現時点で想定している主なデータは以下のとおりです。
マーケティングデータ: 宇宙空間・月面風景・月から見た地球に関する画像・映像等
サイエンスデータ:資源分布、土壌、気温、放射線等の環境情報等
R&Dデータ:特定顧客・特定産業の将来のR&Dに必要なデータ(例:建築業界や自動車業界の研究開発の検討に資する地形・地質・堆砂圧データ等)
② 将来的に顕在化することが見込まれる大規模データベースの利用サービス
将来的(2027年以降を想定)には、ispace(アイスペース)の高頻度なミッションを通じて、ispace(アイスペース)のインターナル・ペイロードから取得・蓄積した情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、顧客にとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築し、顧客が自由にアクセスし、定額料金を課金の上、利用して頂く、SaaS(Software as a Service - サービスとしてのソフトウェア)型・サブスクリプションモデルのビジネスの展開を目指しています。地球上で、月面活動や試験等を簡易的にシミュレーションすることが可能となれば、より多くの企業が、より少ない負担で、月面事業への参画を検討することが可能となります。また、顧客はデータにアクセスするだけで、デジタル上でビジネスにおける潜在的なニーズを把握することが可能となり、これにより能動的な新事業開発の促進が期待され、将来の月面社会の創出へ大きく寄与することが想定されます。
入金と売上の計上方法につきましては、前者はペイロードサービス同様、ロケット打上げの1~2年前の本契約時から打上げまでの間に、その全額が一括若しくは複数回に分割されて入金され、本契約以降月へ到着しミッションを完了させるまでの期間にわたり、履行義務の進捗度に応じて売上が計上される想定であり、後者は、サブスクリプションモデルによる月額課金及び月次での売上計上を想定しております。
図3:データビジネスの成長イメージ
3.パートナーシップサービス
ispace(アイスペース)グループは、ispace(アイスペース)グループの活動を、コンテンツとして利用する権利や広告媒体上でのロゴマークの露出、データ利用権等をパッケージとして販売し、技術開発や事業開発で協業を行うパートナーシップ・プログラムの提供を行っております。過去にはGoogle Lunar XPRIZEに伴うispace(アイスペース)の活動に関するパートナーシップ・プログラムを実施し、累計約10億円の売上を計上いたしました。
続く、史上初の民間による月面探査プログラムとなる「HAKUTO-R」においても、ミッション1及びミッション2の活動期間を対象とするパートナーシップサービスを提供しており、現在、複数の民間企業とパートナーシップ関係を構築しております。入金については、契約時からプログラム終了期間までの間に、総額一括若しくは複数回に分割して行われます。また売上の計上方法につきましては、パートナー各社から受領した協賛金総額を、契約時以降プログラム終了までの期間で分割して月々計上しております。
本パートナーシップサービスを通じた対象企業との関係構築は、一過性の広告活動やブランディング活動に留まらず、ispace(アイスペース)グループのペイロードサービス及びデータサービスに係る将来の潜在的な顧客ニーズを創出し、ispace(アイスペース)の中長期的なビジョンである「Moon Valley 2040」の実現に向けて、月面での経済圏の創出に多様な産業から民間企業の参入を実現する上での重要な布石と位置付けております。ペイロードサービス及びデータサービスからの収入に対して、パートナーシップサービスからの収益の割合は今後相対的に減少するものの、ミッション3以降も新たなプログラムを策定の上、継続して計上する予定です。なお、本パートナーシップサービスの展開に当たっては、ispace(アイスペース)は株式会社電通と業務提携契約を締結の上、販売窓口として当サービスを推進頂いております。
図4:HAKUTO-Rコーポレートパートナー(本書提出日現在)
<ispace(アイスペース)グループが注力する月面輸送サービスのセグメントについて>
現在の月面物資輸送市場は、主にランダーで運搬されるペイロードのサイズに応じて、小型セグメント(500kg以下のペイロード)、中型セグメント(500kg超~1,000kg未満のペイロード)、大型セグメント(1,000kg以上のペイロード)の三分類に分かれると考えております。ペイロードの大きさが拡大するに伴ってランダーのサイズも大型化され、一般的に大型セグメントのランダーは有人向けのものが中心となります。
ispace(アイスペース)グループは、ランダーとローバーの小型軽量化による開発費の低コスト化の優位性を活かし、年複数回の高頻度なミッションを実現することを見据え、小型セグメントへの戦略的集中を行っております。当小型セグメントには、独自の顧客市場の存在、及び技術的観点の差異から、その他の中型から大型セグメントとの間に明確な区分けが存在し、それぞれのセグメントで活動するプレーヤーも区別されていると考えられます。
顧客の観点では、特に足許の市場草創期においては、民間企業や研究機関等からの比較的小型のペイロードを月面に輸送したいというニーズが存在しています。例えば、ペイロードを月面に輸送するに当たっては、顧客のペイロードをランダー及びローバーに搭載するための技術的なアドバイスと調整等の事前のアレンジメントが多数発生いたしますが、同様の顧客が複数、1機のランダーに相乗りをするケースが通常です。小型のペイロードの顧客の観点からは、大型ランダーの中で多数のペイロードの1つとして格納されるケースに比べ、小型ランダーの中で主要なペイロードの1つとして格納されるケースの方が、より自身のニーズに沿ってカスタマイズされたミッション設計(着陸地点・ミッション期間・ペイロードの環境条件等)を得られるメリットを享受できると考えております。また大型のペイロードによるミッションと比べて、より低コストかつ高頻度なミッションを実現できるため、上記のミッション設計の選択肢が多いというメリットもあります。
また、技術的観点からは、一般的に、無人が主流の小型ランダーと有人が主流の大型ランダーとでは、開発に求められる安全性要件の高さも異なれば、サイズ・重量等も異なるため、基本的にそれぞれの開発要素が全く異なるものと考えられます。特にispace(アイスペース)グループの場合は民生品(Commercially available Off-The-Shelf、(以下、「COTS品」という。))を活用して低コスト化も実施する開発コンセプトでのエンジニアリングを追求しておりますが、これは大手プレーヤーによる大型ランダーの開発原則とは必ずしも一致しないと考えられます。従って、大型ランダーを製造するプレーヤーが小型ランダーに参入する場合には、低コスト・軽量化を実現するための技術的障壁が一定程度存在すると考えられます。
なお、ispace(アイスペース)は将来的にランダーのサイズアップを予定しており、輸送可能なペイロード容量を、ミッション1及びミッション2で予定する最大30kgから、ミッション3以降最大500kg程度まで増大させる開発に現在着手しておりますが、小型セグメントへの戦略的集中に変わりはありません。
<ispace(アイスペース)グループの開発及びミッション推進体制について>
ispace(アイスペース)グループは現在、技術実証ミッションとして月面探査プログラム「HAKUTO-R」であるミッション1及びミッション2を成功させるべく、ランダー及びローバーを開発し、ミッション1の打上げを2022年12月11日に実施いたしました。ミッション1のランダーは打上げ後、ispace(アイスペース)ミッション・コントロール・センターからの運用を実施し、2023年4月26日未明に月面着陸を試みました。ランダーとは天体の表面に着陸し、静止することができる宇宙機であり、ローバーとは地球外の天体の表面を移動し、観測するために使われる車両であります。なお、ispace(アイスペース)のランダー及びローバーにつきましては有人利用を想定せず、無人のロボティックスとして開発しております。
ペイロード及びローバーは、ランダーの内部に格納され、更にそのランダーは打上ロケットの内部に格納され、打上ロケットによって宇宙空間における一定ポイントまで輸送されます。ランダーはロケットから分離された後、一定期間をかけて月に向けて自力で宇宙空間を推進し、月の周回軌道へと入り、月面に着陸をします。着陸後、ローバーはランダーから分離され、月面を自走しながら探査活動を行います。
ランダー及びローバーの開発、ランダー又はローバーへのペイロードの搭載、打上ロケットから切り離された後の月までの航行と着陸、月面の探査活動はすべてispace(アイスペース)グループが行う活動です(ランダー及びローバーはすべて、ispace(アイスペース)グループのミッション・コントロール・センターから、ispace(アイスペース)グループオペレーターにより遠隔操作されます)。一方でispace(アイスペース)グループは、打上ロケットに関しては自身で開発等は行わず、既に市場でサービス提供を行っている打上プロバイダーと契約の上、打上サービスを購買しております。
ispace(アイスペース)グループは2016年以降、ランダーの本格的な自社開発に着手するとともに、経験豊富なエンジニアを順次採用しており、足許では約180名のランダー開発エンジニア及びオペレーション専門のエンジニアが在籍し、開発プロジェクトのリーダー層には、衛星開発等で豊富な知見と経験を有する人材を確保しております。多数の外国籍のエンジニアが在籍していることに加え、宇宙/非宇宙のバックグラウンドを持つエンジニア、ハードウェア/ソフトウェアの専門家等、幅広いエンジニアリング人材で構成されていることが1つの特徴です。これまでの宇宙開発ノウハウを最大限活用する一方で、自動車・機械産業等で培われた民間企業ならではの柔軟・迅速な開発プロセスを目指しています。
また、ソフトウェア技術の活用も民間企業として宇宙開発へ参入する上での重要な鍵となります。高い信頼性が求められる宇宙開発においては、これまで確実な信頼性評価が可能なハードウェア技術による開発が優先されてきました。一例としては、ロケットの推進力を向上させるためにはより大型のエンジンを多額のコストを投じて開発していくという考え方が挙げられます。一方、近年のソフトウェアによる制御技術の著しい進化により、民間企業でのソフトウェアを駆使した高度な開発が可能となり、上記のケースであれば、小型のエンジン複数機をソフトウェアで制御することにより、同程度の推進力を維持しつつも大幅なコスト削減が可能となります。このように、今後宇宙開発分野においてソフトウェア技術との融合によりハードウェアの小型軽量化を進めることで、大きなコスト削減が可能になると考えており、ispace(アイスペース)においても多くのソフトウェアエンジニアを採用し開発に従事しております。
なお、ispace(アイスペース)グループでは、信頼性を維持しながらコストと開発期間を短縮するべく、システム・インテグレータとしての開発スタンスを基本としております。すなわち、ispace(アイスペース)ではシステム要件を整理の上でシステム設計をしますが、部品については既に宇宙で実績のあるCOTS品を中心に調達をしており、内製化する部品を最小限としています。その上で、調達した部材を組立て、システム・インテグレートし、システム環境試験を行い、完成したことを検証することとしています。
<ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>
1.ローバーについて
ispace(アイスペース)は2010年の創業以来、一貫してローバー開発に取り組んでおり、その技術はispace(アイスペース)の取締役兼テクノロジー・アドバイザーであった吉田和哉氏が教授を務める東北大学大学院工学研究科において研究開発されたロボティクス・ローバー技術がベースとなっております。ispace(アイスペース)は米国のGoogle社がスポンサーとなりXPRIZE財団が運営する世界初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参戦しておりましたが、そこで使用するローバーのプロトタイプを2011年8月に発表し、2015年1月にはローバーのエンジニアリングモデル(注1)が宇宙空間でも機能する性能を持つことが評価され、Google Lunar XPRIZEの中間賞を受賞し50万米ドルの賞金を獲得しました。その後もフライトモデル(注2)の製造までispace(アイスペース)は完了させ、相乗り先である他社のランダーの打上げを待つ状態に有りましたが、月面探査レースは残念ながら2018年3月に勝者がいないまま終了となりました。ispace(アイスペース)のローバーは月面での実証を行うことができなかったものの、フライトモデルの製造まで完了させたことが一定の評価を受け、本ローバーは2019年に米ワシントンD.C.のスミソニアン航空宇宙博物館へ寄贈されました。
ispace(アイスペース)がGoogle Lunar XPRIZEを通じて開発したローバーは、総重量約4.0kgであり、ispace(アイスペース)が認識する限り、世界でも最小・最軽量の四輪ローバーです。月面の不整地を走破できる4輪駆動、360度の視野を持つカメラで静止画と動画の撮影等、宇宙空間で月面探査ミッションを達成できる能力を維持しつつ、可能な限りCOTS品を活用し、小型軽量化とコスト削減を実現しました。
(注1)基本設計に基づき製作し、機能・性能・環境試験に供することで設計の妥当性を確認し、次の詳細設計段階に移行するための設計を固めるためのデータを取得するためのモデル
(注2)実際に宇宙に打ち上げる本番モデル
2.ランダーについて
ispace(アイスペース)は2016年よりランダーの自社開発を開始し、2017年以降実施している複数回の資金調達を原資として開発作業を進捗させております。ミッション1及びミッション2で利用するRESILIENCEランダーのサイズは、乾燥重量:約340kg(燃料含まず)、ミッション3以降で利用予定のAPEX 1.0ランダーのサイズは乾燥重量:約1,350kg(燃料含まず)となっております。
ランダー開発と月面着陸の歴史は、1959年にソビエト連邦共和国によって開発され月面着陸を行った無人探査機のルナ2号から始まり(以降、1976年のルナ24号までに複数回の着陸を実現)、その後1961年から1972年にかけてNASAが実施したアポロ計画、2013年と2019年にそれぞれ月面着陸を果たした中国の嫦娥3号・4号等、過去にも様々な開発事例が存在しており、ランダー開発技術は原理的に既に確立されたものであります。特にアポロ計画で開発されたランダーは合計6回の有人月面着陸を成功させましたが、これを契機に、ランダーの様な大規模システムを高い品質を保ちながら確実に効率よく開発するための手法として、「段階的プロジェクト計画」(Phased Project Planning:PPP)がNASAによって生み出されました。以降、この手法をベースとして多数の民間企業による人工衛星の開発が行われており、JAXAもまた「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」として同様の手法を提唱しています。
図5:システムエンジニアリング活動に準拠した開発の工程
(JAXA発行「ライフサイクルにおけるプロセスのアウトプット/アクティビティの例」を元にispace(アイスペース)作成)
技術 審査 |
MDR Mission Definition Review |
SRR |
SDR System Definition Review |
PDR Preliminary Design Review |
CDR Critical Design Review |
PSR Pre- Shipment Review |
LRR Launch Readiness Review |
目的 |
ミッションの意義・目的・成功要件・コスト等、ミッション定義の妥当性を確認する審査会 |
ビジネス要件とシステム要件の整合性を確認の上、システム設計開始を承認する審査会
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システム仕様、及びそれに対する検証計画の妥当性、基本設計フェーズに向けた技術・体制・計画等の一連の準備が完了されていることを確認する審査会 |
仕様値に対する設計結果、設計検証計画の実現性を確認する審査会 |
製造と試験の詳細設計と検証計画が適正かを、これまでに実施した試作評価、熱構造特性の評価、電気機械設計等の評価を活用して確認する審査会 |
試験結果の確認及び、打上場への輸送承認を行う審査会
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ロケットへのインテグレーション作業終了の確認及び、打上げと初期運用への移行承認を行う審査会 |
本手法の概要は、開発全体を複数のフェーズに区分し、各フェーズで行うべき作業内容を段階的に定義しながら、それぞれのフェーズにおける結果を審査により評価し、次フェーズへの移行可否を判断しながらフェーズを進めていくものであり、これにより可能な限りの不具合・エラー等を事前に検知し、ミッションまでに確かな開発品質へと高めていく手法です。ispace(アイスペース)のランダー開発もまた、機能面において人工衛星と近似する部分を多く有しているため、基本的には既存の人工衛星開発のプロセスである「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」を踏襲して進められています(詳細なispace(アイスペース)の開発状況については、後記「第2 事業の状況 1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をご参照下さい)。
また上記「システムエンジニアリング活動に準拠した開発の工程」は一般的な人工衛星開発のプロセスを示したものですが、これを基礎としつつ、民間企業等の人工衛星の開発現場においては、そのプロジェクトの複雑性や新規性に拠って、必要とされる審査プロセスを柔軟にアレンジされるケースも一般的です。例えば、新規開発ではない量産型の人工衛星の製造等の場合、既存設計は過去の物を踏襲し、プロジェクト開始後即座にPDRを実施の上、フェーズCへ移行するケースも存在します。ispace(アイスペース)の場合も、ミッション2の開発においては基本的にミッション1と類似する設計となることから、ミッション1よりも比較的短期のプロセスとなっております。
3.外部の開発パートナーの積極的な活用
ispace(アイスペース)は経験豊富なエンジニア陣による「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」に万全を期すことで、確かな開発品質を実現させていく計画ですが、技術実証ミッションを遂行する上では外部パートナーの積極的な活用にも取り組んでおります。中でもランダー固有の開発点として、以下の二点については外部パートナーの協力を積極的に活用しております。
・微小重力下で月面着陸姿勢を制御可能な大型推進システムの開発
・月面着陸を精度高く行うための着陸制御システムの開発
推進システムについては、宇宙空間における推進システムの開発における長年の実績を有する、欧州大手の航空宇宙企業であるエアバスから分離独立したAriane Group社から、推進系システムの設計協力(レビュー等)を得つつ、基幹部品であるスラスター・バルブ・配管等を調達し、推進系システムの組立も同グループの工場を賃借し行う等、緊密な協力関係を構築しております。なお、ispace(アイスペース)ミッション1及びミッション2については同様の協力関係を現時点で想定しておりますが、ミッション3については米国子会社をランダーの開発拠点とし、NASAによる月面への輸送サービス委託するプログラムであるCLPSへ採択されサービス提供を実行することから、CLPSの要求事項であるDomestic Source Requirements(US内製品の使用)の条件を満たす必要があり基本的に米国企業からの部材調達を実施しております。
着陸制御システムの開発については、1960年代から70年代にかけてのアポロ計画でランダーの同システムの開発を担当した米国のドレイパー研究所(本社:米国マサチューセッツ州)に委託をしております。同社との契約関係により、ispace(アイスペース)は2028年6月末までの期間、地球以外の惑星に500kg以下のペイロードを着陸させる能力を持つ宇宙機への利用に関して、同社が開発する着陸制御システムを独占的に使用する権利を保有しています。
また、前述のとおり、ispace(アイスペース)グループは、打上ロケットの自社開発は行わず、既に市場でサービス提供を行っている打上プロバイダーと契約の上、打上サービスを購買してまいりますが、現時点でミッション1からミッション3までについて、SpaceX社との間で打上契約を締結しております。同社のロケットであるファルコン9は、累計で350回超の打上げを行い、過去の打上の成功確率としても約99%と極めて信頼性の高い実績を持つパートナーです。これらの外部パートナーの協力を積極的に活用することで、ispace(アイスペース)はより着実なミッションの成功を目指してまいります。
<開発・営業におけるグローバルネットワーク>
上述のとおり、ispace(アイスペース)グループでは、グローバルなエンジニア人材による「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」や海外の外部パートナーの積極的な活用により技術実証ミッションを遂行しております。これを実現する上では、世界中の優秀なエンジニアを獲得することが必要となります。ispace(アイスペース)グループでは、東京の本社にミッション1及びミッション2のランダーの開発拠点を置く他、米国デンバーの子会社ではミッション3で利用予定の大型化したランダーの開発拠点を、またルクセンブルク大公国の子会社ではローバーの開発拠点を置く等、グローバルに開発部隊を配置し、それぞれの拠点の強みを活用しております。またそれぞれの拠点は、日本のJAXAや米国NASA、欧州のESA等の重要な宇宙機関と物理的距離を近く取ることにより、各地での月面開発ニーズの吸い上げを行っております。
また顧客開拓の観点においても、ispace(アイスペース)は世界各国において、宇宙機関や民間企業の顧客需要を開拓していく上でも、グローバルなネットワークを構築し、各拠点営業人員を配置しております。欧州においては子会社ispace EUROPE S.A.の従業員が、ESAが実施する月の水資源探査プロジェクトのサイエンスチームに選出される等、ispace(アイスペース)グループは、民間による月面開発の事業化に取り組むグローバル企業として、国内外から認知されております。
図6:ispace(アイスペース)グループのグローバルネットワーク
<長期ビジョン>
ispace(アイスペース)グループが掲げる「Expand our planet. Expand our future.」には、月を人類が宇宙内で活動する上でのエネルギー補給基地として活用し、2040年を目途に「地球と月がひとつのエコシステムとなる経済圏を創出する」というビジョンを実現させる意思が込められています。この経済圏を具現化した構想として、ispace(アイスペース)グループは2040年以降に1,000人が月に暮らし、年間1万人が地球との間を往来することを想定した月面上の都市「Moon Valley 2040」の構想を併せて掲げています。
月を「エネルギー補給基地」として活用する上で鍵となるのが、月における水の存在です。近年の調査で月には水資源が存在することが明らかとなっており(*1)、そのサイズは数億~60億トン(*2)とも言われ、その分布状況や分量の確定に更なる調査と分析が必要とされています。また月には水資源だけでなく、鉱物資源やヘリウム3も存在する可能性があり、これらの資源の利用可能性にも注目が集まっています。
*1 出所:Direct evidence of surface exposed water ice in the lunar polar regions, PNAS https://www.pnas.org/content/115/36/8907
*2 出所:Dr.David R. Williams, https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/text/lp_pr_19980903.txt
水から電気分解された水素と酸素は、液体水素・液体酸素として、近年の宇宙開発におけるロケット推進燃料として利用されています。将来的に月の水資源を有効活用し、エネルギー源の生成からロケットの推進燃料としての利用までを、一気通貫して月で行うことができれば、地球の1/6ともされる微小重力下の月から抜け出し宇宙空間を移動する燃料輸送コストは、地球の重力から抜け出すことが所与となっていた従来の燃料輸送コストに比べて、大幅に引下げることが可能になると考えられております。これが現在、世界中の注目が月に集まる最大の背景と考えられます。
図7:エネルギー補給基地としての月の可能性
小惑星・火星等の深宇宙探査は、科学的観点から人類に大きな利益をもたらすと考えられており、将来的にもより高頻度で実施されることが期待されています。また、現在地球の周回にはGPS(全地球測位システム)・気象観測衛星等、数千機もの人工衛星が存在し、近い将来にはメガ・コンステレーション(大規模な人工衛星群)によるインターネット接続も計画されている等、これらの衛星が地球上の人類の生活を維持する上で必要不可欠なインフラになっており、長期的な維持利用を見据えて燃料補給等のメンテナンスをいかに行うかが課題です。
将来的に更に増大することが見込まれる深宇宙探査のための移動燃料、また人工衛星の活動維持のための燃料を、すべて地球上から賄うことは、特に地球の重力から抜け出す際に膨大なエネルギーコストが必要になることを考えれば、深刻な課題と言えます。本課題を解消するために月を人類が宇宙内で活動する上でのエネルギー補給基地として活用し、2040年を目途に「地球と月がひとつのエコシステムとなる経済圏を創出する」ことを目指すispace(アイスペース)のビジョンは、長期的に人類の地球上の生活を持続させることに繋がる世界的に重要な施策の1つと言えます。
<ビジョン実現に向けたロードマップ>
ispace(アイスペース)グループでは、前述の「Moon Valley 2040」の実現に向けたロードマップを下記図8のように大きく2つのフェーズに分けて整理しております。
図8:「Moon Valley 2040」の実現に向けたロードマップ
フェーズ1では、ispace(アイスペース)グループは月の水資源やその他資源の商業的価値に着目し、高頻度・低コストな月面輸送を行うプラットフォームを構築するとともに、月面資源のデータマッピングを行い、月ビジネスに参入するすべての顧客(政府宇宙機関・研究機関・民間企業等)に有益な月のデータ(画像データ・環境データ・資源情報等)を提供することを計画しております。続くフェーズ2では、月面資源探査/開発プラットフォームを構築するために、月の水資源からロケット推進燃料を生成する事業パートナー企業とのアライアンス構築に取り組む計画です。
これらを通じて、2040年代には地球と月がひとつのエコシステムとなる経済圏「Moon Valley 2040」を創造していきます。
[事業系統図]
ispace(アイスペース)グループの事業系統図は、次のとおりであります。
ispace(アイスペース)グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在においてispace(アイスペース)グループが判断したものであります。
(1)経営方針
ispace(アイスペース)グループは、「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンとし、地球と月が1つのエコシステムとなる世界を築くことにより、月に新たな経済圏を創出することを目的としています。この実現に向け、史上初の民間月面探査へ向け研究・開発を推進する企業として、持続的な成長と企業価値の最大化を目指すことを基本方針としております。
(2)経営戦略等
1.品質向上サイクルの実現
ispace(アイスペース)グループは現在、2024年から2027年にかけてそれぞれ計画している月着陸のミッション(ミッション2、ミッション3及びミッション6)に向けて、ローバー及びランダーの開発を進めておりますが、過去の国主導の宇宙ミッションでは実現が困難であった、民間企業ならではの品質向上サイクルを回すことを企図しています。
既存の宇宙開発の課題の1つに、コストの高さ及びそれに起因する実証機会の少なさが挙げられます。過去の宇宙ミッションの多くが国主導のミッションですが、民間企業と比較して失敗に対する許容度を相対的に低く設定せざるを得ないことから、より慎重かつ複雑な開発プロセスと、より重層的な実証試験等を行わざるを得ず、開発コストが大規模かつ開発期間が長期化する傾向があります。
一般的に、技術的な品質を向上させ成功率を高めるためには、リスク・コントロールが可能な範囲での技術的失敗と改善を繰り返す、言わば健全な反復プロセスが必要不可欠とされています。しかしこれまでの宇宙ミッションでは、高額な開発コストはそのまま実証機会の少なさにつながり、結果的に宇宙開発におけるプロダクトの品質向上サイクルを回すことに限界が生じていたと考えられます。
ispace(アイスペース)グループは提供するプロダクトをロボティックスによる無人かつ小型で軽量化されたモデルに設定し、また必要とされる部材についても、近年その品質が急速に向上しているCOTS品から十分に宇宙品質に耐えられるものを選定し、柔軟に調達することを基本としています。また国主導のミッションと比較して、失敗に対する許容度を相対的に高く設定することが可能な民間企業としての特性を活かし、実用性が高く迅速な開発プロセスを設計し、結果的に既存の宇宙機器開発と比較して大幅な開発コストの低減が可能となっています。これにより実証機会を増加させ、将来的に反復ミッションと十分な研究開発による品質向上を実現し、更には量産による品質安定化を図ることを計画しております。
ispace(アイスペース)は、初の実証ミッションとなる2022年のミッション1及び2024年予定のミッション2を、技術実証ミッションとして位置づけています。前述のとおり、経験を十分に有するエンジニア陣による「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」に万全を期すことで、確かな開発品質を実現させていく計画ですが、失敗が一切存在しないミッションを保証するものではありません。ispace(アイスペース)としては、リスク・コントロール可能な範囲での失敗については、仮に発生した場合にも企業として許容可能な十分な手当を準備しています。実際に、ミッション1で獲得されたミッションデータは、着陸失敗の要因分析に関するデータまでを含めて、ミッション2以降の後続ミッションへと活用される予定であり、ispace(アイスペース)はそのために、後続するミッション2、ミッション3及びミッション6の開発も並行して進捗させております。ミッションを高頻度に実施し、技術的な経験値を継続して蓄積させていくことが、ispace(アイスペース)の技術的リスクを低減させ、持続安定的な事業運営を達成する上での重要な鍵となります。
2.ミッションリスクに備えた手当
ispace(アイスペース)グループが行う月着陸ミッションには、宇宙開発における一定の不確定要素が存在すること、特にミッション1及びミッション2においてはispace(アイスペース)の実証段階であることも踏まえれば、一定のミッションリスクが存在しますが、これに備えた十分な手当を行うことを戦略としております。
ispace(アイスペース)は、ミッション1を含めた複数ミッションについて、SpaceX社のファルコン9ロケットにランダーを搭載し打上げを行う予定です。ファルコン9はSpaceX社により開発された中型ロケットであり、打上価格が機当たり67百万米ドル/1回(本書提出日時点における公表値(https://www.spacex.com/media/Capabilities&Services.pdf))と同規模の他社ロケットと比較し安価であり、市場において大きなシェアを獲得しております。打上契約後は、仮に何か問題が発生しミッション継続に支障が起きた場合にも、SpaceX社は打上代金の返金をせず、打上業者と顧客であるispace(アイスペース)の双方がお互いに損害賠償請求権を放棄して、自損自弁にしておくことが業界慣行となっています。ispace(アイスペース)は、累計で350回超の打上げを行い、過去の打上げの成功確率としても約99%と極めて信頼性の高い実績を持つSpaceX社のファルコン9を選定しておりますが、仮に問題が発生した事態における財務的リスクを軽減するために、第三者の損害保険会社との間ですべてのミッションについて月保険を締結する予定であり、ミッション1については、三井住友海上火災保険株式会社との間で損害保険契約を締結しておりました。当該保険はロケットが打ち上げられてからランダーが月面に着陸し、通信の機能が正常に作動して地球とランダーとの間でデータ送受信が行われるまでを保険責任期間としており、実際にミッション1の月面着陸未完に伴い約38億円の保険金を受領しております。ミッション2についても月保険を締結する予定ですが、本書提出日現在においては未締結となります。
同様に、ispace(アイスペース)とispace(アイスペース)の顧客との間においても、SpaceX社とispace(アイスペース)との間と同様の仕組みを踏襲し、ispace(アイスペース)と顧客の双方がお互いに損害賠償請求権を放棄して自損自弁とする契約体系を基本としております。また、ispace(アイスペース)が手掛ける①ペイロードサービス、②データサービス及び③パートナーシップサービスでは、基本的にロケット打上げに先立つ1~2年前に本契約をし、以降、ロケット打上げまでの間に、ほぼ全額の金銭的対価を顧客から受領することを基本としていますが、仮に契約後に問題が発生しミッション継続に支障が起きた場合にも、ispace(アイスペース)側に契約不履行に繋がる程の重大な瑕疵(マテリアル・ブリーチ)が生じない限り、原則としてispace(アイスペース)から顧客への返金が生じない契約体系となり、複数のペイロード顧客との間で、既に上記趣旨の内容で最終契約を締結しております。将来的には、より多くの顧客に安心してispace(アイスペース)のサービスを利用してもらい、産業を活性化させる上では、損害保険等の商品により顧客の財務的リスクを軽減させる仕組みが不可欠と考えており、月面輸送サービスにおける損害保険商品の将来的な導入を見据え、現在第三者の損害保険会社との間で検討を進めております。
3.継続的なミッション資金の十分な確保
先に記載のとおり、宇宙開発における技術の品質向上サイクルを実現させることは民間企業ならではの利点と言え、ispace(アイスペース)は、常に単発ではなく同時並行で継続的なミッションの準備を進めておくことで、リスク・コントロールが可能な範囲での技術的失敗を、タイムリーに次のミッションの改善へと反映させることを実現させます。
ispace(アイスペース)は足許、2024年に計画するミッション2、2026年に計画するサイズアップされたAPEX 1.0ランダーでのミッション3、並びに2027年に計画するシリーズⅢランダー(仮称)の開発にも人的・財務的なリソースを配分しております。ランダー及びローバーの開発には一般的に高額の開発費用を要すること、また継続的に打上業者との間で高額な打上契約に関する合意を形成していかねばならないこと、そして複数ミッションの検討を同時並行して実施可能な十分の開発エンジニアを確保することから、ispace(アイスペース)は常に比較的大規模な財務的原資を手当する必要があり、継続的な資金調達の実施が持続的な事業運営上不可欠です。
ispace(アイスペース)は2014年の無担保転換社債型新株予約権付社債の発行(シード投資)、2017年から2018年(シリーズA)、2020年(シリーズB)及び2021年(シリーズC)の三度の第三者割当増資に加え、2023年及び2024年の公募増資により累計で約344.7億円の資金調達を実施しております。その他にも2021年5月に実施した金融機関からの総額19.5億円の借入、2022年7月に実施したシンジケートローン契約による50億円の調達、2023年度には複数行から計75億円の借入を実行しております。今後も積極的に、グローバルな資本市場へアクセスし、十分な財務的資金バッファを確保することで、宇宙開発における技術の品質向上サイクルを実現していく計画です。
4.政府宇宙機関及び民間企業の双方の顧客ターゲティング
足許のispace(アイスペース)の売上は、グローバルな顧客ニーズの高まりを背景に、顧客からのペイロードを輸送するペイロードサービスの売上が重要な割合を占めております。
ispace(アイスペース)は、2019年12月にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイの政府宇宙機関であるMBRSCより、ミッション1において10kgのペイロード(月面探査ローバー)を運ぶ大型受注を獲得し、2021年に本契約を締結致しました。MBRSCの前身となる機関は2006年に設立され、以降、2009年のDubaiSat-1、2013年のDubaiSat-2等、複数の衛星プロジェクトを打上げた実績を持つ、中東を代表する先進的宇宙機関の1つです。2020年7月には、UAE建国50周年を迎える2021年に中東初となる無人探査機の火星到着を目指す火星探査ミッションにおいて、MBRSCは火星探査機「HOPE」の設計と技術面の取りまとめを行い、三菱重工のロケットH-IIAによる打上げを成功させています。
この他の宇宙機関との間では、カナダ宇宙庁が推進するプログラムであるLEAPに採択されたカナダの民間企業であるMCSSとの間で人工知能のフライトコンピューターのペイロードサービス、Canadensysとの間でカメラのペイロードサービス、NGCとの間でデータサービスを提供する契約を締結しております。また、JAXAとの間では変形型月面ロボットのペイロードを月面へ輸送することで合意し、2021年4月に本契約を締結しております。
また、ispace(アイスペース)子会社であるispace technologies U.S., inc.は、主契約者であるドレイパー研究所等で構成されるドレイパーチームの一員として、2022年7月においてNASAのCLPSのタスクオーダーCP-12のサービスプロバイダーの1社に選ばれており、当該タスクオーダーの総額は73百万米ドルとなります。これに関して、ispace(アイスペース)子会社であるispace technologies U.S., inc.は、ドレイパー研究所との間で、ランダーの製造やペイロードサービスを実施するための請負契約を締結し、当該契約に基づき、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)、及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。これらの2機のリレー衛星はBlue Canyon Technologies Inc.が製造し、Advanced Space, LLC が運用をサポートする予定で、これらの衛星を活用して月震データを最大1年間にわたり収集する予定です。
ispace(アイスペース)子会社とドレイパー研究所の間の上記請負契約の契約金額は約5,450万米ドルとなっておりますが、支払は一定のマイルストーンの達成を条件とした分割払いとなっており、打上日(2027年3月期中を現時点で想定)までに総額の10%を除いた金額が支払われ、残り10%相当額については月面着陸及びペイロードからのデータの受信時に支払われる予定です。また、NASAの要請によりドレイパー研究所がミッション期間を延長した場合には、2機のリレーの衛星につき最大で280万米ドルの支払いを追加で受領できる可能性があります。ただし、ispace(アイスペース)子会社は、ドレイパー研究所との契約上、自らの契約不履行又は履行遅滞に起因して発生した損害についてドレイパー研究所に対して損害賠償義務を負う可能性があり、また、ispace(アイスペース)起因の理由によりタスクオーダーCP-12の費用が増加した場合には、当該増加費用分をドレイパー研究所に対してispace(アイスペース)が負担することになる可能性があることから、最終的な受取金額は減少する可能性もあります。
民間企業との間では、ミッション1のペイロードとして、日本特殊陶業株式会社との間で固体電池を月面へ輸送する契約を獲得しており、既に本契約を締結の上、全額の入金も完了しております。また、ミッション2顧客として、高砂熱学工業株式会社との間で月面用水電解装置、台湾中央大学との間で深宇宙放射線プローブ、株式会社ユーグレナとの間で微細藻類培養装置のペイロードサービス契約を締結しております。ミッション3顧客として、Rhea Space Activity社、Control Data Systems SRL社とペイロードサービス契約を締結しております。
また、ispace(アイスペース)は世界各国の民間企業・宇宙機関・研究機関との間で、MOU(Memorandum of Understanding)やinterim Payload Service Agreement(ペイロードサービス中間契約。以下、「i-PSA」という。)を締結しております(以下、MOUとi-PSAを総称して「MOU等」という。)。当該MOU等は基本的にミッション3以降における将来的なペイロードサービス、データサービスについて共同検討や共同開発を進める内容であり、今後も多くの民間企業・宇宙機関・研究機関とMOU等の締結を拡大させる予定です。民間企業とのMOU等締結の背景は様々ですが、直近では特に、月面における水資源を活用したバリューチェーンに含まれる事業と関係する企業との強固な関係を築いております。
例えば、バリューチェーンのエンド・ユーザーとなるトヨタ自動車株式会社との間では、日米両政府による「Lunar Surface Exploration Implementing Arrangement」にて日本からの提供が決まった「有人与圧ローバー」に関連する地上試験、月面環境での技術実証に関する協議を進めております。また、ミッション3以降の顧客として、Helios Project, Ltd.との間で最大5kgのレゴリス融解酸素生成装置、株式会社アークエッジ・スペースとの間で15kgの衛星機器、レスター大学との間で水資源探査機器のi-PSAを締結しております。本書提出日現在、世界各国の民間企業との間でミッション3以降を対象とした総額313百万米ドルのMOU等を締結しております。
上記のMOU等には法的拘束力が認められず、受注及びispace(アイスペース)の売上計上に繋がるかは不確実ではあるものの、ispace(アイスペース)は今後も民間企業各社とのMOU締結を進めてより多くの顧客と間で強固な関係を築く予定であり、将来的な民間企業からのペイロードサービスの受注につなげることを見込んでおります。
5.中長期的な売上拡大及び収益性の改善
ispace(アイスペース)は、技術が一定程度確立され、安定的な月面輸送が可能となると想定されるミッション4以降、平均して年2回から3回のミッションを実施することを計画しております。またミッション3以降は、顧客のペイロード需要が大型化する傾向が予想されることから、最大300-500kgまでのペイロード輸送を可能とするデザインのAPEX1.0ランダーを開発中です。実際の顧客への販売重量は、デザイン上の重量から開発における不確実性や販売充足率を加味した歩留まり率をもとに販売重量を想定しており、ミッションを重ねるごとに開発マージンの効率化、販売充足率の向上により、顧客への販売重量を順次拡大させていくことを目指します。
表1:ミッションスケジュール及び想定販売重量
ミッション |
打上げ (予定)時期 |
販売可能 重量(kg) |
|
ミッション |
打上げ 予定時期 |
販売可能 重量(kg) |
1 |
2022年12月 |
約12 |
|
6 |
2027年 |
約208 |
2 |
2024年Q4 |
約11 |
|
7 |
2028年 |
約151 |
3 |
2026年 |
約145 |
|
8 |
2028年 |
約160 |
4 |
2027年 |
約150 |
|
9 |
2028年 |
約160 |
5 |
2027年 |
約137 |
|
10 |
2029年 |
約168 |
※上記は本書提出日時点の想定であり今後変更となる可能性があります。このようにミッション3以降はispace(アイスペース)の収益源となるペイロードサイズが増大し、更に将来的にミッションが高頻度かつ同時並行的に実施される予定であることから、ペイロードサービスからの売上を一層拡大させることを目指します。また、売上の拡大を図ると同時にコスト削減を実施することで収益性の向上を実現するよう計画しており、そのための施策としてCOTS品の利用、大量購入によるスケールメリットの享受、開発人員の習熟化による人件費削減、ノウハウ蓄積による試験工程の効率化の実施を目指します。
また中長期的には、複数のミッションから収集されたデータの蓄積を元に、データサービスからの売上も徐々に拡大することを想定しています。データサービスの提供の方法としては、(1)データの取得前から取得するためのペイロード機器の開発からispace(アイスペース)が検討に加わり、データ取得のために必要なペイロードの輸送コストまで含めて顧客へ課金するケースと、(2)既にispace(アイスペース)で保有する取得済みの顧客の需要に応じた付加価値の高いデータセットへ加工し、データ販売のみ提供するケースが存在します。2020年代前半において高頻度輸送を確立することで他社に先行してデータの収集、解析、高付加価値化を実施し、2020年代後半に向けてデータプラットフォームを活用した高収益なデータビジネスモデルの構築を目指します。
(3)経営環境
ispace(アイスペース)グループの事業が属する経営環境は次のような特徴があります。
ispace(アイスペース)グループが属する宇宙資源開発の分野では、2023年8月にインド宇宙研究機関の「チャンドラヤーン3号」が月面着陸、2024年1月にはJAXAの「SLIM」が月面へのピンポイント着陸に成功する等、世界各国で政府主導による宇宙探査活動が活発化しています。
一方、近年ではテクノロジーの進化とCOTS品の拡大、ソフトウェア技術の進化を背景に、これまでは政府主導の宇宙機関に限定されてきた宇宙事業の門戸が民間企業へ開かれてきております。NASAを筆頭とする各国の宇宙機関では、地球低軌道における活動等に関する宇宙関連予算の大幅な節約につなげるべく、宇宙開発に民間企業を活用する傾向が拡大しており、サービスを提供可能な民間企業に対して政府が発注する「サービス調達」の形態による宇宙探査活動も活発化しております。
特に米国ではその傾向が顕著であり、一例として、NASAは2008年より商業補給サービス(Commercial Resupply Services:CRS)計画を発表しており、国際宇宙ステーション(International Space Station、(以下、「ISS」という。)への輸送を民間企業に委託しています。実際に2011年には高コストであったNASA自身によるスペースシャトルの開発と運用が停止され、その後、SpaceX社やオービタル・サイエンシズ社等、民間によるロケットの打上げと宇宙船のISSへのドッキングが成功しており、直近では2020年6月にSpaceX社のロケットから切り離された宇宙船「クルー・ドラゴン」が、民間企業としては史上初となるISSへのドッキングを成功させたことは世間の記憶にも新しいところです。
日本政府もまた民間による宇宙開発を推進していく考えであり、日本政府が主導する「中小企業イノベーション創出推進事業」では宇宙分野にも補助金の配分がなされ、そのなかでispace(アイスペース)は「月面ランダーの開発・運用実証」と提示された経済産業省の実施するテーマに選定され、予算額(補助上限)120億円の補助対象事業として採択されました。中小企業イノベーション創出推進事業は、日本のイノベーション創出を促進するためのSBIR(Small Business Innovation Research)制度の下、革新的な研究開発を行うスタートアップ等が社会実装に繋げるための大規模技術実証を実施し、日本におけるスタートアップ等の有する先端技術の社会実装の促進を図ることを目的とするものです。また2023年11月には、民間企業・大学等による複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年間の「宇宙戦略基金」を設置し、総額1兆円規模の支援を行うことを目指すことが閣議決定されました。
宇宙市場全体の成長可能性については、2040年代にはその市場規模はグローバルで1兆米ドル以上に成長するとの予測がありますが(*)、宇宙産業の中でも特に月は、前述のとおりその存在が見込まれている水資源をエネルギーとして利用する経済価値が高く着目されており、世界各国が月面へのミッションを実行しております。
2019年初頭には中国の無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)」が世界で初めて月の裏側へ着陸し、また米国ではバイデン政権下で、昨年度対比で約15億米ドルもの増額となる248億米ドル相当の2022年度NASA予算が議会に申請され、1970年代のアポロ計画以降初となる月面の有人探査を2024年までに実施する「アルテミス計画」が推進されています。2020年10月以降本アルテミス計画の一環として、月面における平和的・友好的かつ透明性ある活動のガイドラインとなる「Artemis Accords(アルテミス合意)」に日本と米国を含む世界39カ国(2024年4月時点)が合意・署名する等、引き続き活発な進捗が見られております。
日本もまたJAXAがSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)プロジェクトにより、将来の月惑星探査に必要な高精度着陸技術を小型探査機で実証しています。また、欧州宇宙機関のESAは、3Dプリンティング技術を活用して月面土壌から基地を製造し宇宙飛行士による深宇宙探査の拠点とすることを想定した、Moon Village構想を検討しています。
また昨今、NASAは、民間企業に対して今後10年間で総額26億米ドルの予算を投じ、月面への輸送サービス委託するCLPSプログラムを開始しております。ispace(アイスペース)子会社であるispace technologies U.S., inc.は米国のドレイパー研究所を中心とするチームに所属し、同チームで応募したCLPSに関する初期提案書は、2018年11月にNASAにより採択され、ispace technologies U.S., inc.は同プログラムにてNASAから受注する資格を有するチームの1社として選定されました。その後2022年7月において、同チームの提案がNASAに採択されており、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。これらの2機のリレー衛星はBlue Canyon Technologies Inc.が製造し、Advanced Space, LLC が運用をサポートする予定で、これらの衛星を活用して月震データを最大1年間にわたり収集する予定です。
更には、宇宙機関による月面開発の本格化の動きを受け、月面でのエネルギー経済圏が創出されることを見据えた民間企業による新しいビジネスも生まれつつあります。トヨタ自動車株式会社は、水素を燃料とし、月面で1万キロ以上の走行が可能な有人与圧ローバー(ルナ・クルーザー)をJAXAと共同で開発し、早ければ2032年に月に打ち上げることを目指しています。清水建設株式会社は、月面拠点の開発に向けた構想や、月面での大規模太陽光発電により生まれたエネルギーを地球上にまで伝送するLunar Ring構想を掲げています。
加えて、2023年1月には、岸田文雄内閣総理大臣がNASAを訪問し、日米両国が平和的目的のための宇宙協力を行う際の基本事項を定めた「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を締結しました。さらに2024年4月には、日本の月面与圧ローバー提供及び運用と米国によるアルテミス計画での日本人宇宙飛行士による2回の月面着陸の機会提供などを含む「Lunar Surface Exploration Implementing Arrangement」への署名に関する共同声明が日米両政府により発表されるなど、月面開発への具体的な政府の取り組みが大きく進捗しております。
PwC社の調査に基づくと、ispace(アイスペース)がターゲットとする市場が大きく拡大することが予想されております。各地域の市場トレンドや観測可能な調査に基づくボトムアップ分析の楽観的シナリオにおいては、月面輸送サービス事業の市場は2040年に84億米ドル(注)、月面データ取得・販売事業の市場は12億米ドル(注)に達するとされており、それぞれの2020年から2040年の期間においての年平均成長率は12%/22%と高い成長が予測されております。また、ispace(アイスペース)のビジョンである「2040年以降に月に1,000人が居住」することと同様の前提を置いた場合のロードマップ分析による同社の調査データによると、月面輸送市場は年間約1,502億米ドル(注)まで達すると推定されております。
(注)2036~2040年の累計値の年平均値
(*) 出所:総務省 宙を拓くタスクフォース(第6回)平成31年3月1日開催。NTTデータ経営研究所作成の「長期的な宇宙ビジネス市場規模の試算」
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ispace(アイスペース)グループがステークホルダーから主に期待されている点は、計画から遅延しない研究開発活動による技術確立とミッションの実行、顧客からの事業収益の獲得、事業運営のために必要な原資の適時な調達、及び限られた資金の最大限に効率的な使用等を通じて、収益の最大化を図ることと認識しております。
技術確立の実現のため、今後複数ミッションの同時開発を実施し、後続ミッションへの技術フィードバックを適時に実施してまいりますが、複数ミッションを同時並行で進捗させるために、事業収益の獲得や資金調達を通じた財務基盤の確立が重要となります。
より直接的に開発の進捗を確認する上では、ispace(アイスペース)が開示するミッションごとの開発スケジュール及び、1つの開発フェーズが完了し、次のフェーズへ移行する上でマイルストーンとなる審査の完了報告が重要となります。
ispace(アイスペース)は2017年よりミッション1のランダー開発を開始しており、以降、途中でミッション内容の変更を行った影響により開発期間の長期化等も発生しましたが、2022年10月までに製造、最終試験まで完了し、2022年12月11日にミッション1の打上げを実施しました。「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」では、各フェーズで行われるべき作業プロセスが完了すると、それぞれのフェーズにおける結果を評価し、次フェーズへの移行可否を判断する技術審査を行いますが、ミッション1の開発プロセスにおいても以下のとおりの審査を経ております。
表2:ランダー開発フェーズの概観(ミッション1のケース)
フェーズ |
フェーズA |
➡ |
フェーズB |
➡ |
― |
➡ |
フェーズC |
➡ |
フェーズD |
|
技術 審査 |
SRR System Requirement Review |
PDR Preliminary Design Review |
⊿SRR・⊿PDR Delta SRR ・Delta PDR |
CDR Critical Design Review |
PSR Pre-Shipment Review |
LRR Launch Readiness Review |
||||
目的 |
ビジネス要件とシステム要件の整合性を確認の上、システム設計開始を承認する審査会 |
仕様値に対する設計結果、設計検証計画の実現性を確認する審査会 |
― |
製造と試験の詳細設計と検証計画が適正かを、これまでに実施した試作評価、熱構造特性の評価、電気機械設計等の評価を活用して確認する審査会 |
試験結果の確認及び、打上場への輸送承認を行う審査会 |
ロケットへのインテグレーション作業終了の確認及び、打上げと初期運用への移行承認を行う審査会 |
||||
ispace(アイスペース)の ケース |
2017年下期に実施。外部専門家がオブザーバーとして参加。MDR及びSDRを包含して実施 |
2018年下期に実施。グローバルに約30名の外部専門家が審査に参加 |
ランダー開発を月周回から月面着陸へと変更する上で必要な変更を審議するため、SRR(2019年8月)及び⊿PDR(2019年11月)を実施 |
2020年9月以降、外部専門家も交えて実施、2021年2月に最終完了 |
2022年10月に実施 |
2022年11月に実施 |
上記審査過程の中でも、特にPDRとCDRを特に重要なマイルストーンであると認識をしております。ミッション2の開発プロセスにおいては、2022年7月にPDRを、2023年1月にCDRを完了しており、ミッション3の開発プロセスにおいては、2023年9月にPDRが完了し、現在CDRを実施中となります。
また、顧客からの事業収益の観点では、ペイロードサービス契約及びデータサービス契約に加え、MOU及びi-PSAの締結総額が収益の先行指標として重要となります。2024年3月末現在、ミッション1の総契約金額(ペイロードサービス契約及びデータサービス契約)は約10百万米ドルであり、ミッション2の総契約金額(すべてペイロードサービス契約)は約16百万米ドルであり、ミッション3以降の総契約金額は約55.6百万米ドルになります。また、本書提出日現在ペイロードサービスに係るMOU及びi-PSAの締結総額は約313百万米ドルとなります。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
宇宙関連ビジネスはグローバル・ベースで、継続的かつ加速度的に拡大していくものと見込まれており、この産業の潮流に対応するために必要な技術確立が急がれる状況です。足許、ispace(アイスペース)グループは、多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております。当該事象又は状況を解消し、安定的な事業収益が創出されるまでの間、下記を重要な課題として取り組んでおります。
ただし、当該重要事象等を解決するための対応策を実施していること、また、債務超過の解消のための自己資本の充実を目的とした機動的な資金調達の可能性を適宜検討していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
① 研究開発の推進
R&Dミッションであるミッション2、米国での初の打上げとなるミッション3及び日本で商業用の新たなモデルを使用するミッション6に向けて、打上事業者による打上機会を確保すると同時に、開発スケジュール、開発コスト及び開発クオリティを厳格に管理することで、ランダー及びローバーの開発を着実に進めてまいります。
② 顧客の開拓
ispace(アイスペース)が事業収益を獲得するために必要なランダー及びローバーは開発途上にあります。またispace(アイスペース)が事業収益を見込む市場は、現在グローバルでも草創期に当たります。ispace(アイスペース)では現在ミッション2からミッション4までの顧客からの潜在的受注を確認していますが、事業収益の安定化に向けて引き続き中長期的に持続可能な顧客市場を開拓してまいります。
③ 人材の確保
ispace(アイスペース)はランダー及びローバーの研究開発を遂行するために、継続して多様な開発領域について高度な専門性と能力を備えた人材を国内外から雇用しております。
また、急速に従業員数が拡大する組織の中において、各人材がその能力を最大限に発揮することが可能な環境を整えるための取り組みを引き続き行ってまいります。
④ 成長に対応した内部統制の構築と適切な運用
今後の事業運営及び業容拡大に対応すべく、必要な業務プロセス、財務・経理上の体制、労務管理、子会社管理、セキュリティ管理等を整備する等、ispace(アイスペース)の成長に対応した内部統制の構築及び運用の実施を引き続き行ってまいります。
⑤ 財務上の課題について
ispace(アイスペース)にとって、安定的な事業収益化を目指す上で将来的に継続的なミッションの実現が必要であり、そのための必要資金を着実に確保することが重要です。ispace(アイスペース)ではこれまで、無担保転換社債型新株予約権付社債の発行、第三者割当増資、金融機関からの借入、クラウドファンディング、公募増資等によって資金調達をしてまいりましたが、今後も、ミッション推進のために機動的な資金調達の可能性を適時検討してまいります。
また、ispace(アイスペース)はミッション1に関して三井住友海上火災保険株式会社との間で損害保険契約を締結しミッション1において保険金を受領しております。ispace(アイスペース)は保険によるリスク低減も財務安全性確保のための一つの手段として認識しており、ミッション2以降も保険の利用を検討しております。
さらに、2022年7月に株式会社三井住友銀行をアレンジャー、株式会社みずほ銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社商工組合中央金庫をコアレンジャー、株式会社静岡銀行を参加金融機関とする、総額50億円のシンジケートローン契約を締結しております。加えて2024年3月期には複数行より総額75億円の融資契約を締結しており、2024年4月には株式会社三井住友銀行より借換も含めた総額70億円の融資契約を締結しております。
本書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
ispace(アイスペース)グループはこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、ispace(アイスペース)株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクをすべて網羅したものではなく、さらにこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意いただく必要があると考えます。ispace(アイスペース)グループは月面開発事業を行っており月面着陸がビジネス遂行上の要件となりますが、未だispace(アイスペース)において月面への着陸実績はありません。また、ispace(アイスペース)が属する宇宙産業自体未だ市場草創期であり安定的な市場は確立されておらず、将来の市場規模拡大には不確実性を伴います。また、月着陸船の開発には長い年月と多額の研究費用を要するとともに、すべての開発及び月面着陸ミッションが成功するとは限らないことからも、ispace(アイスペース)への投資は一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられます。
なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在においてispace(アイスペース)が判断したものであり、将来において発生の可能性のあるすべてのリスクを網羅したものではありません。
Ⅰ. 外部環境及び第三者など自社を取り巻く環境に関するリスク
(1)ispace(アイスペース)ビジネスおよび業界に関するリスク
①市場について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
ispace(アイスペース)の属する宇宙産業は将来の成長が期待される市場でありますが、ispace(アイスペース)が事業収益を見込むペイロードサービスとデータサービスは、現在グローバルでも草創期に当たります。それゆえ、宇宙産業の将来には多くの不確実性が伴います。ispace(アイスペース)では既に現在ミッション1及びミッション2の顧客からの受注の確定及び、ミッション3以降に係る顧客からの潜在的受注を確認しておりますが、今後、当該事業における市場がispace(アイスペース)の想定通り成立・成長する保証はありません。例えば、世界的な経済情勢や企業の景気による影響等により事業環境が変化した場合には、ispace(アイスペース)の顧客が政府機関の場合には月関連の事業に投入可能な予算額が減少し、また民間企業の場合には研究開発予算や事業開発予算・ブランディング予算等が減少し、その結果、市場において十分な需要が生じない可能性があります。加えて、ispace(アイスペース)又は第三者が策定する市場規模に関する予測は、様々な仮定や前提条件に基づいており、前提条件の内容等によってその結果は大きく異なります。例えば、前記PwC社の調査においても、各地域の市場トレンドや観測可能な調査に基づくボトムアップ分析と、ispace(アイスペース)のビジョンである「2040年以降に月に1,000人が居住」することと同様の前提を置いた場合のロードマップ分析では大きく結果が異なります。したがって、これらの予測において用いられる仮定や前提条件が正しくない場合には、予測とは大きく異なった結果となる可能性があります。また、当該調査は2021年9月に発表されたものであり、例えばNASAのアルテミス計画の遅延等、それ以降の市況や地政学的状況の変化を反映しておりません。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ispace(アイスペース)グループが注力する月面輸送サービスのセグメントについて>」記載のとおり、ispace(アイスペース)は、ペイロードサービスにおいて、小型セグメントへの戦略的集中を行っており、中~大型のセグメントのペイロードを指向する顧客とは重複しない一定層の小型セグメントが成立し得ると考えているところ、ペイロード市場における主要なニーズが、ispace(アイスペース)が対応出来ない中~大型のペイロードを指向する場合には、ispace(アイスペース)が提供するサービスへの需要が十分に喚起されないおそれがあり、また、仮に需要があったとしても、他の事業者が提供する中~大型ランダーの余剰スペースに搭載する形のペイロードサービスによって代替されるおそれもあります。さらに、ispace(アイスペース)が行うペイロードサービスの単価等については既に確立した水準は存在しないことから、契約相手方との関係や競合相手の状況によっては、ispace(アイスペース)が希望する水準での価格設定や契約条件の設定を行えない可能性があります。
加えて、データサービスについては、潜在的な顧客からのニーズは確認されており、ispace(アイスペース)として顧客からの受注も存在しているものの、現時点で十分な市場は確立されておらず、また、同サービスにおける価格設定についても、今後市場動向や競合の動向によって仕組み等が変動する可能性があります。したがって、将来的に同サービスにおいて、ispace(アイスペース)が期待するだけの需要を喚起できない可能性や、できたとしてispace(アイスペース)が希望する水準での価格設定を行えない可能性があります。また、ispace(アイスペース)が顧客のために取得したデータについて、顧客との交渉次第では、ispace(アイスペース)が権利を確保できない可能性があり、その場合、ispace(アイスペース)が計画するデータプラットフォームやデータベースの構築が遅延する、又は実現しない可能性があります。
このように、ispace(アイスペース)の想定通りに市場が成立・成長しなかった場合等には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
②マクロ経済について
ispace(アイスペース)の業績は、日本、米国および国際的な経済・政治情勢等の影響を大きく受けます。現在のインフレ環境は、様々な部品、材料およびサービスの調達コストの上昇をもたらし、また今後ももたらし続ける可能性があり、将来金利が上昇した場合には、ispace(アイスペース)の借入コストが増加する可能性があります。現在および将来の顧客は、その事業または予算が経済状況の影響を受けた場合には、ispace(アイスペース)のサービスに対する支出を延期または減少させる可能性があります。現在および将来の顧客がispace(アイスペース)のサービスに対する代金を支払えない場合、ispace(アイスペース)の収益およびキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。
現在のロシアとウクライナの軍事衝突は、米国及び北大西洋条約機構(NATO)と、ロシアの緊張をエスカレートさせております。米国をはじめとするNATO加盟国および非加盟国は、ロシアおよびロシアの特定の銀行、企業、個人に対して制裁を課しております。このような制裁措置はispace(アイスペース)の事業に重大な影響を及ぼしていませんが、将来の追加制裁措置や、その結果生じるロシア、米国、NATO諸国間の紛争がispace(アイスペース)の事業に悪影響を及ぼさないという保証はありません。また、イスラエルと過激派組織との武力衝突により、中東および世界的な緊張が激化する可能性があり、このような状況により影響を受ける顧客への営業活動に悪影響を及ぼす可能性があるほか、ispace(アイスペース)グループの事業および経営に悪影響を及ぼす可能性があります。このような軍事紛争やそれに関連する動きは、侵攻後に発生した商品価格、信用市場、資本市場の大幅な変動、サプライチェーンの断絶のような市場のさらなる混乱につながる可能性があり、ispace(アイスペース)グループの事業および業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
③為替レートについて (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
ispace(アイスペース)グループは、海外への事業展開にも取り組んでおり、ルクセンブルク大公国及び米国に連結子会社を有しております。ルクセンブルク子会社及び米国子会社の財務諸表における現地通貨建の項目は、連結財務諸表作成のために円換算されることから、連結財務諸表数値は為替相場の変動による影響を受ける可能性があります。また、ispace(アイスペース)、ルクセンブルク子会社及び米国子会社も海外のサプライヤーとの間で複数の外貨建て取引を行っていますが、特に為替予約その他ヘッジ取引は行っておりません。ispace(アイスペース)は、ペイロードサービスやデータサービス等の主要な事業については米ドル建ての入金とすることによって、米ドルに対する円の為替変動リスクを一定程度軽減しておりますが、今後著しい為替変動があった場合には、ispace(アイスペース)グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
④自然災害等について
大規模な地震等の自然災害、伝染病の蔓延や事故等、ispace(アイスペース)による予測が不可能又は突発的な事由によって、事業所等が壊滅的な損害を被る可能性があります。このような自然災害に備え、従業員安否確認手段の整備、防災品の確保等に努めておりますが、想定を超える自然災害が発生する場合は、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上施設やサプライヤーが自然災害により損害を被った場合、悪天候により打上スケジュールが遅延した場合、サプライヤーの所在する地域においてテロや政治的混乱が生じた場合や、宇宙空間内で太陽フレアや流星塵が生じることによってランダーとの通信に悪影響が生じる場合等にも、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)第三者に関するリスク
①政府機関の顧客について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
ispace(アイスペース)の既存顧客の多くが政府機関であり、また、当面の間、ispace(アイスペース)の潜在顧客の多くも政府機関となることが予想されるところ、一般に政府機関の数は限定的であり、受注できる契約数も限定的となる可能性があります。また、政府機関からの発注については、国家予算や地政学上のリスクによる影響を受ける傾向があり、これらによって、政府機関からの発注自体が少なくなるか、発注内容が変更若しくは取り消される可能性があります。また、政府機関からの発注への応募についても一定の当該国での内製化要件等が課される場合もあり、ispace(アイスペース)としては米国・日本・欧州の各拠点で開発体制を敷いているものの、ispace(アイスペース)が必ずしも応募できるとは限りません。加えて、政府機関との契約については、入札手続を経ることからispace(アイスペース)が期待する水準の単価とならない可能性があり、したがって、ispace(アイスペース)の想定通りの採算で受注できない可能性があります。また、契約締結後も、政府機関による解約が広く認められる場合等、民間企業と契約する場合に比べてispace(アイスペース)にとって不利な契約条項が含まれる可能性、政府機関が契約先であるゆえに労働・人種差別・環境等の法規制の対象となる可能性、ispace(アイスペース)において追加的な規制や要件の遵守を求められる可能性、支出に際して政府機関の承認が必要となる可能性、ispace(アイスペース)の技術内容を含めた一定の事項について開示が要求される可能性、部材やサービスの調達先について一定の要件を課される可能性や、現地のオフィスや施設等の設置等を求められる可能性等があります。
加えて、政府機関との契約においては、契約条件の遵守について政府機関による詳細な調査権が認められる場合があります。さらに、ispace(アイスペース)がこれらの規制や条件等に違反した場合、契約の解約のみならず、行政処分等の対象となる場合があり、かかる処分等が下された場合、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
したがって、政府機関からの発注については、受注できたとしても、ispace(アイスペース)が想定したとおりの収益を上げることができない可能性があります。
②重要な外部パートナー及び顧客への依存について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
ispace(アイスペース)が開発するランダーは、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、ミッション1及びミッション2の推進系システムについてはAriane Groupに製造を委託し、着陸制御システムの開発についてはドレイパー研究所とのアライアンス関係を築いています。
また、ミッション1から3の打上げに関しては、SpaceX社とファルコン9ロケットによる打上契約を締結しております。これらの関係は、ispace(アイスペース)における技術及び競争上の強みとなっていると考えております。
しかしながら、ispace(アイスペース)がこれらの関係を継続し続けられる保証はありません。ispace(アイスペース)はこれらのパートナーと長期にわたるビジネス面での連携を過去より実施し信頼関係を構築するとともに、定期的なミーティング等の場を通じて関係維持に努めておりますが、既存の関係を失った場合、同等の技術的水準又は価格水準を提供する代わりの第三者パートナーを確保できない可能性があります。また、現状の契約期間の終了後にこれらのパートナーとの契約を再締結又は更新できる保証はなく、これらの契約が同価格又はサービス水準では更新されない可能性もあります。さらに、これらはいずれも海外の企業であるため米国等の輸出管理規制が強化されることにより、これらのパートナーとの協働ができなくなる可能性もあります。
加えて、重要なパートナーとの契約では、通常の民間企業と契約する場合に比べて、ispace(アイスペース)にとって不利な契約条項が含まれる可能性があります。例えば、ispace(アイスペース)子会社であるispace technologies U.S., inc.は、2022年7月にNASAのCLPSプログラムのタスクオーダーCP-12のサービスプロバイダーに採択されています。これに関して、ispace(アイスペース)子会社であるispace technologies U.S., inc.は、ドレイパー研究所との間で、ランダーの製造やペイロードサービスを実施するための請負契約を締結し、当該契約に基づき、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)、及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。しかし、ispace(アイスペース)子会社は、ドレイパー研究所との契約上、自らの契約不履行又は履行遅滞に起因して発生した損害についてドレイパー研究所に対して損害賠償義務を負う可能性があり、また、ispace(アイスペース)起因の理由によりタスクオーダーCP-12の費用が増加した場合には、当該増加費用分をドレイパー研究所に対してispace(アイスペース)が負担することになる可能性があることから、最終的な受取金額は減少する可能性もあります。
また、上記の企業以外にも、ispace(アイスペース)は開発するランダーの部品の多くを外部から調達しているところ、部品調達に遅延が生じた場合や、当該部品に欠陥等があった場合、さらには、新型コロナウイルスの拡大を含む天災や事故等により外部サプライヤーの生産能力が制限された場合等には、ispace(アイスペース)の開発・ミッションに遅延が生じる可能性や、代替調達先の確保をしなければならなくなることにより追加の費用を負担する可能性があります。
加えて、「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、ispace(アイスペース)のランダーは、ロケットから放出された後、ミッション完了まではすべてispace(アイスペース)が東京都中央区日本橋に開設いたしましたミッション・コントロール・センターより、ispace(アイスペース)の従業員により制御されるところ、そのために必要なミッション・コントロール・センターとランダー間の宇宙通信については、欧州宇宙機関(ESA)傘下のESOCの協力の下、同機関が保有する専用の宇宙通信ネットワークを利用する計画であるため、当該ネットワークに障害が生じた場合にはミッションの実行に支障を生じさせる可能性があります。
③打上業者に関するリスクについて (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)がミッション1からミッション3で使用するランダーの打上げについては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、SpaceX社と打上契約を締結しております。
当該契約上ミッション2においては、第三者のペイロードとの相乗りでSpaceXのロケットに搭載される予定です。SpaceX社は、ispace(アイスペース)及び相乗り先のスケジュールや技術要件、打上場所の天候等を考慮して打上スケジュールを決定する責任を負っており、ispace(アイスペース)のミッションスケジュールに遅延等の影響が生じる可能性があります。また、ミッション3においてはispace(アイスペース)がSpaceX社のロケットを占有する契約となっておりますが、この場合も、米国連邦航空局等の政府機関によるSpaceX社のロケット及び/又はispace(アイスペース)のランダーの打上げの承認が遅れた場合等に、打上スケジュールに影響が生じる可能性があります。
このような場合でも、ispace(アイスペース)は既存顧客との間で、少なくともミッション1及びミッション2の間は、基本的な方針としてispace(アイスペース)の顧客に対して返金を行わない契約を締結しておりますが、顧客側が任意解除権を有する契約や一定期間以上のスケジュール遅延が生じた場合に顧客側に解除権が発生する(ただし、後者については既に受領済みの対価についての返金は不要となる)契約や、一定のマイルストーンの達成を一部支払の条件としている契約を一部の顧客との間で締結しており、結果としてミッションが遅延又は達成されない場合、ispace(アイスペース)の評判や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、ispace(アイスペース)はミッション4以降においても、ランダーの打上げについては、第三者である打上業者に委託をする予定ですが、将来において必ずしも十分な数の打上業者が存在するとは限らず、業界全体として十分な打上機会が確保されない結果、ispace(アイスペース)ランダーの打上コストがispace(アイスペース)の想定を上回り、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上業者の不足等により、ispace(アイスペース)のスケジュール通りのミッションの実現を可能とする打上業者とispace(アイスペース)が契約できなかった場合には、ispace(アイスペース)のミッションスケジュールに遅延等が生じる可能性があります。
上記の結果ミッションスケジュールに遅延が生じた場合には、遅延の期間や顧客との契約の内容によっては、ispace(アイスペース)の売上高の計上時期に影響が生じる可能性があります。
④競合について
ispace(アイスペース)の事業と同様のビジネスモデルを有している企業は海外に数社あり、その中には、2024年3月期中にミッションの実行がされている会社があります。また、ispace(アイスペース)は、月面ペイロード輸送事業及びデータ事業を行う企業のみならず、宇宙衛星軌道にペイロードを輸送する事業を行う企業や、月面探査ローバーの開発事業のみを行う企業等とも競合する可能性があります。
ispace(アイスペース)は東北大学の吉田研究室での月面探査ローバー開発をベースとして、創業以来、約10年にわたるローバー開発の歴史を持ち、ispace(アイスペース)開発のローバーは「Google Lunar XPRIZE」の中間賞を受賞した実績を有します。また、ランダー開発においても2016年頃から取り組みを開始する等、比較的長い期間の開発実績と研究成果の蓄積を有しており、これらランダー及びローバーの開発状況が評価されたことからNASAのCLPSへ採択され、今後も継続してNASAから提示されるタスクオーダーの受注資格を有しており、さらにミッション1においては設定した10のマイルストーンのうち8を達成し着陸直前までの間に貴重な航行データを収集した等の実績を持ちます。それに加え、技術的難易度の高い着陸誘導制御をアポロ計画の月着陸で実績を持つドレイパー研究所と協業することによる技術競争力、日本、米国、欧州3拠点体制により各国政府の輸出規制等に左右されない最適なサプライヤー選定が可能になることによるコスト競争力の両面において他社との差別化を目指してまいりますが、宇宙産業は将来の成長が期待される市場であり、引き続き国内外の事業者がこの分野に参入してくる可能性があります。このため、先行して事業を推進していくことで、さらに実績を積み上げて市場内での地位を早期に確立してまいりますが、今後において十分な実績が得られなかった場合や、新規参入により競争が激化した場合には、ペイロードサービスの価格を下げざるを得ない場合による売上減少等、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、データサービスについても、ispace(アイスペース)のペイロードサービスの競合他社が、ispace(アイスペース)同様、ミッションで取得したデータを用いた上でデータサービスを提供する可能性があり、また、宇宙衛星軌道上で宇宙データサービスを取り扱う会社が、業務の一部として、月面データの領域に参入する可能性もあります。
ispace(アイスペース)の競合他社の中には、ispace(アイスペース)に比べ、より多額の投資ができる企業や、より高価値又は魅力的な価格でサービスを提供することができる企業が存在する可能性があります。また、既存の競合他社が、第三者と戦略的提携等を行うことにより、競争力を強化する可能性もあります。加えて、今後、海外の競合他社が政府から補助金等を受領することによって競争力を高める可能性もあります。このように、ispace(アイスペース)の競争力は多くの要因によって影響を受けるところ、ispace(アイスペース)が競争力を維持することが出来なかった場合、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ベンチャーキャピタル等の株式所有割合に伴うリスクについて
ispace(アイスペース)の発行済株式総数に対するベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下「ベンチャーキャピタル等」という。)の所有割合は2024年3月末現在21.0%であります。ispace(アイスペース)の株式の株価推移や、ベンチャーキャピタル等に定められた規程によっては、ベンチャーキャピタル等が所有する株式の全部又は一部を売却する可能性や、ベンチャーキャピタル等の投資家へ現物分配が実施される可能性等が考えられ、その場合、株式市場におけるispace(アイスペース)株式の需給バランスが短期的に損なわれ、ispace(アイスペース)株式の市場価格に悪影響を及ぼす可能性があります。
Ⅱ. ビジネスモデル等の自社の事業に起因するリスク
(1)ispace(アイスペース)開発・ミッションに関するリスク
①ミッションの未達について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)が行うミッションについて、ミッション1においては月面着陸、ミッション2においては月面着陸及びローバーによる月面探査を目指してまいります。一方、月面開発事業は元来技術的リスクを伴うものであり、ispace(アイスペース)においてこれまで月面着陸の実績はなく、また、民間企業や日本の宇宙機関が月面着陸を行った事例もありません。ispace(アイスペース)としては、技術的にはランダーの推進及び着陸誘導制御は旧ソ連によるルナ計画、米国のアポロ計画、中国による嫦娥計画等の実績があり特に革新的な新規技術を必要とするものではないとの理解であり、ミッション1においてミッションを計10個のSucessマイルストーンに分解したうち、Success8となる月周回軌道上でのすべての軌道制御マヌーバの完了(Sucess8)まで無事達成しております。一方で、Success9となる月面着陸の完了は未達で終わっており、本書提出日現在、ispace(アイスペース)のランダーが月に着陸した実績はありません。加えて、地球外の天体にランダーを着陸させることは元来難易度が高いオペレーションであるため、ispace(アイスペース)では両分野の開発は経験豊富な第三者と協業することでリスクの低減に努めておりますが、予期せぬトラブルが発生した場合、今後もミッションが未達となる可能性があります。ミッション未達についても様々な事象が想定され、A.ロケットの打上げ時に障害が発生する可能性、B.月へ向かう航行中に障害が発生する可能性、C.月の周回軌道に入る際に障害が発生する可能性、D.月への着陸が安定的に成功しない可能性、E.着陸後にランダーからローバーを放出する等のミッションを実行できない可能性等が考えられます。
また、ミッション3以降については、ispace(アイスペース)は、重量や設計も異なるAPEX1.0ランダーの使用を計画しているところ、APEX1.0ランダーの開発及び運航について想定外の問題が生じる可能性があります。また、ミッション3で予定している2機のリレー衛星の輸送についても、初の月周回軌道への輸送となることから、ミッション1及びミッション2とは異なる問題が生じる可能性があります。加えて、ミッション6以降の使用を目指して開発に着手しているシリーズⅢランダー(仮称)の開発及び運航についても想定外の問題が生じる可能性があります。ispace(アイスペース)は、APEX1.0ランダー及びシリーズⅢランダー(仮称)を使用する計画のミッションにおいて、前述のとおり、RESILIENCEランダーを使用するミッションよりも多くの販売可能重量及び売上高を計画していることから、これらのランダーに問題が生じた場合、ispace(アイスペース)の収益に生じる悪影響の程度が大きくなる可能性があります。
ispace(アイスペース)においては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」及び「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」に記載のとおり、ペイロードサービスについては、その一部の対価を前払いとし、かつ、契約後の返金を行わないこととすることや、損害保険契約を締結する等によって、ミッションが未達となった場合のリスク軽減措置を講ずる予定です。特に、2024年を予定するミッション2については既にispace(アイスペース)販売可能重量を満たすだけのペイロードサービス契約を締結済みとなっております。また、前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 1.品質向上サイクルの実現」記載のとおり、事業モデルとしても、一定の失敗が生じ得ることは織り込んだ上での事業運営を行っております。したがって、ispace(アイスペース)としては、1回のミッションの未達が直ちに営業面、財務面における重大な悪影響を及ぼすものではないと考えております。しかしながら、ミッションの未達が継続して発生した場合においては、ispace(アイスペース)の技術的信用力が低下することで、ispace(アイスペース)の株価・資金調達能力・評判に悪影響が及ぶ可能性があり、後続ミッションにおける顧客離反リスクが顕在化する可能性があります。また、ミッションが未達となることにより、ispace(アイスペース)の技術力の検証ができない可能性や、必要なデータを取得できない可能性もあり、これにより、その後のミッションに影響を及ぼす可能性があります。
また、前記「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」記載のとおり、ispace(アイスペース)とSpaceX社との間の打上契約では、打上げ後にはいずれの責かを判定することが困難なことから、業界慣行上、相互の責を問わない契約となっており、ispace(アイスペース)の責によらないと考えられる事由により発生しミッション継続に支障が起きた場合であっても、同社に対して打上代金の返金を求めることができないこととされています。上記のリスク軽減措置についても、例えばispace(アイスペース)が加入する保険の保証限度内でispace(アイスペース)が負担する損失をカバーできない等、リスクを軽減するのに十分でない可能性があり、また、本書提出日現在においてispace(アイスペース)はミッション2以降について保険契約を締結していないところ、月保険においては現時点で商品内容が確立されておらず、不確実性を伴うこと等から、ispace(アイスペース)が望む経済的条件で保険に加入できない可能性、損害を十分に幅広くカバーする保険に加入できない可能性や、高額な保険料によってispace(アイスペース)の収益が圧迫される可能性もあります。
②ispace(アイスペース)の開発について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
ispace(アイスペース)は2022年12月11日にミッション1の打上げを完了するとともに、現在ミッション2、3、6に向けてランダー及びローバーの開発を進めており、その開発状況の詳細は前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」記載のとおりです。ispace(アイスペース)は、スケジュールについては進捗管理を専担するプロジェクト・マネジメント・オフィスを設け厳格に管理しており、仮にスケジュールに影響を与える事象が生じた場合においては、全体スケジュールへ影響を及ぼさないよう、製造工程の手順調整や部分的な作業の加速によって調整する方針ですが、従前ミッション1において、発注から納品までに年単位の時間を要する長納期品の納入に伴う開発期間の変更や、顧客ペイロードインターフェースのためのランダー仕様変更、ランダーの推進系システムの一部不具合による再調達等により、開発スケジュールの遅延が生じたことがあり、今後も同様の遅延が生じる可能性があります。ispace(アイスペース)が行う月面開発事業においては高度な技術と正確性が求められ、ミッションの成功に向けては、細心の注意を図り、万全を期す必要があることから、今後の組立工程や試験の結果、及びその結果を踏まえた物品の再調達による納期の関係等様々な要因により、やむを得ず遅延が発生する可能性があります。
開発上の技術的問題により遅延が生じた場合、当該問題を克服するために想定外の費用が生じる可能性や、想定外の期間の遅延が生じる可能性があります。ispace(アイスペース)が2024年に打上げを計画するミッション2については、既にサブシステムレベルでのCDRが完了し、フェーズD(制作・試験)に移行してまいりますが、フェーズDにおいても、様々なコンポーネントを1つのシステムに組み立てる過程や、組立後の試験において不整合や不具合が判明する場合があり、その結果、ミッション2の実行時期が遅延する可能性があります。また、生じた問題の度合いによっては、再度CDRをやり直す必要が生じる可能性があり、その場合、ミッション2の打上時期が大幅に遅延する可能性があります。また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、ispace(アイスペース)のミッション3以降のAPEX1.0ランダーと、ミッション6以降にAPEX1.0ランダーと併用することを目指して開発に着手しているシリーズⅢランダー(仮称)は、ミッション1及びミッション2で使用するRESILIENCEランダーの設計からの変更を予定しているところ、ミッション1及びミッション2に用いるRESILIENCEランダーと比較して大きく、デザインや仕様のほか、組立、運用場所もミッション1及びミッション2から変更される予定であることから、ミッション1及びミッション2のRESILIENCEランダーを予定通り開発できたとしても、ミッション3以降のAPEX1.0ランダー及びミッション6以降のシリーズⅢランダー(仮称)が予定通り開発できる保証はなく、開発できたとしても当初の想定を上回る費用が生じる可能性があります。ミッションが遅延した場合、打上契約等外部パートナーとの間の契約内容を変更する必要が生じる可能性や、追加の費用負担が発生する可能性があり、ispace(アイスペース)の希望通りに変更や資金的な手当てができない場合にはミッションの実行に支障が生じる可能性があります。さらに、ispace(アイスペース)が既に受注を受けている顧客が発注の変更又はキャンセルを要望する可能性があります。ispace(アイスペース)は、少なくとも技術実証段階であるミッション1、ミッション2の期間については、ispace(アイスペース)ペイロードサービスの本格的な商業化前であることに鑑みて、顧客とのペイロード契約上、かかる変更やキャンセルに伴う返金が発生しない方針で基本的に合意し最終契約を締結しておりますが、商業化を目指すミッション3以降において同趣旨での契約が合意されない場合には、ispace(アイスペース)が想定する収益が減少する可能性があります。また、1つのミッションが遅延した場合には、後続のミッションスケジュールにも影響を及ぼす可能性があります。このような場合には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)ispace(アイスペース)営業に関するリスク
①ispace(アイスペース)のMOU及びi-PSAについて (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等」記載のとおり、ispace(アイスペース)は世界各国の民間企業・宇宙機関・研究機関との間で、基本的にミッション3以降における将来的なペイロードサービス、データサービスについて、MOU等を締結しております。しかしながら、これらのMOU等は法的拘束力を伴うものではなく、MOU等を締結したとしても、ispace(アイスペース)の売上高が計上されるわけではありません。また、これらのMOU等について、ispace(アイスペース)が最終契約を締結できる保証はありません。また、最終契約を締結できたとしても、当該契約の内容は、MOU等の内容とは大幅に異なる可能性があります。さらに、ispace(アイスペース)が締結するMOU等は、相当期間、先の内容について定めるものもあり、仮にMOU等の内容通り最終契約締結に至ったとしても、将来の時点においては経済合理性を欠いている可能性もあります。
②参加中・参加予定のプロジェクト及び協業について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)は現在、CLPSタスクオーダーCP-22において、Terran Orbital Corporationの100%子会社であるTyvak社による入札に関連して、ispace(アイスペース)の米国子会社が着陸船および月面へのペイロード輸送の設計・開発・運用の下請け業者として提案参加するなど、多数のプロジェクトに提案を行っており、さまざまな協業や提携にむけた協議を行っております。タスクオーダーCP-22で他の元請業者が選定された場合には、本下請契約は自動的に終了します。Tyvak社との下請契約の詳細については、後記「5 経営上の重要な契約等」に記載のとおりです。このようなプロジェクト、協業、提携に関する発表や報道は、世間や業界の大きな注目を集める可能性があり、ispace(アイスペース)株式の取引価格、ispace(アイスペース)事業、および将来プロジェクト等に悪影響を及ぼす可能性があります。このような入札に関連するその他のリスクについては、後記「Ⅱ.ビジネスモデル等の自社の事業に起因するリスク(2)ispace(アイスペース)営業に関するリスク④営業活動について」もご参照ください。
③ispace(アイスペース)のデータプラットフォームを用いたSaaS型・サブスクリプション型のサービスについて
前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて> 2.データサービス」記載のとおり、将来的には、ispace(アイスペース)の高頻度なミッションを通じて、ispace(アイスペース)のインターナル・ペイロードから取得・蓄積した情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、顧客にとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築し、顧客が自由にアクセスし、定額料金を課金の上、利用して頂く、SaaS型・サブスクリプションモデルのビジネスの展開を目指しています。当該ビジネスモデルの実現のためには、当面の間、ispace(アイスペース)がインターナル・ペイロードを通じて月面の様々なデータを取得することが前提となりますが、ミッション未達等により、ispace(アイスペース)の想定通りミッションが実行されない場合には、ispace(アイスペース)の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。また、ispace(アイスペース)が十分に資金調達を行うことができない等の理由により、ispace(アイスペース)の想定通りの頻度でミッションが実行できない場合にも、ispace(アイスペース)の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。これらの場合、ispace(アイスペース)の同サービスの競争力を失う可能性があります。加えて、ミッションが予定通り実行されたとしても、ispace(アイスペース)がインターナル・ペイロードとして輸送するローバーや、計測機器・カメラ機器等を通じて、想定通り月面のデータが取得できるという保証はなく、ispace(アイスペース)の想定通りデータが取得できない場合、サービスの提供が困難となる可能性があります。また、データサービスのビジネス展開のためには、データセンサー・データプラットフォームの構築費用やデータサービスのための人件費等多額の支出が必要となるところ、必要となる支出がispace(アイスペース)の想定を上回る可能性があります。また、支出したにもかかわらず、様々な要因により、ispace(アイスペース)がデータサービスを実施できない可能性があります。さらに、ispace(アイスペース)がデータサービスの提供のために外部業者と協力する場合、当該業者と契約条件を合意できない場合や当該業者によるサービスが想定通りに提供されない場合等には、ispace(アイスペース)によるデータサービスの提供に支障が生じる可能性があります。
加えて、今後、ispace(アイスペース)がデータサービスの展開ができたとしても、競争が激化する場合や、ispace(アイスペース)が付加価値のあるサービスを競争力のある価格で提供できない場合には顧客を獲得できる保証はなく、また、ispace(アイスペース)が十分な利益を上げられるほどの単価を設定できる保証もありません。
④営業活動について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)の業績は、業界特性に起因する長期化する営業期間とその不確実性により変動しており、今後も変動する可能性があります。営業努力の一環として、ispace(アイスペース)は潜在顧客の特定のニーズを評価し、ispace(アイスペース)のペイロードサービスの技術的能力と価値について潜在顧客に理解いただくために、多大な時間と費用を投資しています。営業期間は長期化する傾向にあり、顧客によってその期間も大きく異なります。ispace(アイスペース)のペイロードサービスの購入は多額の費用が発生するため、潜在顧客は一般的に、組織内の複数のレベルでispace(アイスペース)のシステム、製品、技術を評価し、それぞれの要件を満たしていることを確認したうえで、管理職と複数の内部承認が必要となります。このような評価は、政府機関の場合特に複雑で多大な時間を要する可能性があり、政府機関の意思決定スケジュールは、当初の見積もりよりも大幅に遅れる可能性があります。場合によっては、ispace(アイスペース)の管理職を含む人的資源、費用および時間に対する多大な投資を含む営業活動が、潜在的な顧客と拘束力のあるPSAの締結に繋がる保証はありません。また、あるミッションの主要顧客を確保できたとしても、その顧客が着陸船のペイロード容量をすべて使用しない場合、着陸船の残りのペイロード容量について、同じタイミングまたは月面の同じ場所へのペイロード輸送を希望する顧客を確保することが困難になる可能性があります。ミッションの全ペイロード容量を満たす顧客の確保が困難な場合、全ペイロード容量に満たない状態で打上げたり、ペイロード容量を満たすため通常よりも不利な条件で契約を締結したりする可能性があり、いずれの場合もミッションの収益性を低下させる可能性があります。潜在的な顧客に対する営業努力の結果、ispace(アイスペース)の投資を正当化するのに十分な売上高が得られない場合、ispace(アイスペース)グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。
⑤販売可能なペイロード容量について
ispace(アイスペース)のミッション1及びミッション2では、ランダーの設計上、顧客に提供可能なペイロード容量を30kgに設定しておりますが、このすべての重量について顧客へ課金することは想定しておりません。具体的には、顧客に販売するためのデータを取得するた社内の実験機器の搭載や、顧客ペイロードの性質に伴う想定外の追加デバイスの搭載等により、顧客に課金可能なペイロード容量が削減される可能性があります。事業計画上は、ミッション1においては12.43kg、ミッション2においては10.5kgを顧客に課金可能な容量として設定し、一定程度保守的な見積もりを置いておりますが、2024年を予定するミッション2においては今後の状況次第で変更となる可能性があります。またミッション3以降においては、顧客に提供可能なペイロード容量を足許最大で300kg、将来的には最大500kgに設定予定ですが、ミッション1及びミッション2と同様に不確定要素が存在することから、事業計画上は過去の実績を鑑み一定の開発マージンを割り引いた容量を設定し、更に容量をすべて充足するだけの顧客を獲得できない可能性を踏まえ、一定の販売充足率の前提も掛け合わせた想定歩留まり率を設定の上、将来的にこの値が徐々に改善される前提を置き、売上計画を立てております。
上記に加えて、ペイロードの構成によっては想定よりも多くのペイロード容量を要する場合もあり、ペイロード容量は顧客へ課金できる容量とは異なり、また、販売可能容量のすべてについて顧客の契約を獲得できるとは限らない点に留意する必要があります。
(3)ispace(アイスペース)財務に関するリスク
①月保険について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
宇宙分野の技術は進歩し続けておりますが、宇宙で行われるサービスには、スペースデブリとの衝突、打ち上げ時や飛行中の事故や故障など、固有のリスクが伴います。万が一このような事故が発生した場合、ispace(アイスペース)の月着陸船や月探査車は甚大な被害を受けるもしくは全損する可能性が高いですが、ispace(アイスペース)が将来加入する可能性のある月保険は、発生し得る損失を補償するのに十分でない可能性があります。ミッション1では、月着陸船が月面への軟着陸に失敗し、月着陸船と搭載していたペイロードの全損を経験しており、当時加入していた月保険の契約に基づき約38億円の保険金を受領しております。今後のミッションについても同様に、月保険への加入を適宜検討してまいります。ispace(アイスペース)がミッション1に使用し、ミッション2およびミッション3の打上げを契約しているSpaceX社は、ispace(アイスペース)の過失によらず打上げ時に事故や故障が発生した場合でも、打上費用の払い戻しは行いません。これは、打上サービス提供者とその顧客が、そのような事故に関する損害賠償請求権を放棄するのが現在の業界慣行であるためです。今後のミッションで月保険を締結した場合でも、損害の重大性や原因によっては、保険の内容や金額がすべての費用や賠償責任をカバーするのに十分でない可能性があります。
また、ispace(アイスペース)がミッションに対するリスクを認識している期間に保険が解除される可能性もあり、すべての業務上のリスク、自然災害および費用をカバーする保険契約を締結することは不可能です。当業界における保険の利用可能性や価格は大きく変動するおそれがあるため、ispace(アイスペース)の特定のニーズに合致する保険や、ispace(アイスペース)が想定する保険料やその他の条件の保険に加入できない可能性があります。また、ミッション1の未達および将来のミッションの未達によって、将来の保険の利用可能性、保険料、保険金額、その他の条件にも悪影響が及ぶ可能性があります。加えて、ispace(アイスペース)が認識しているリスクの多くに対応する保険に加入できたとしても、より広範な保険市況やispace(アイスペース)がコントロールできない要因により、保険料が現時点の見積もりよりも大幅に高くなったり、利用可能な保険金額が減少したりする可能性があります。保険契約の保険料の増加や、不利な条件が適用された場合には、ispace(アイスペース)の純利益が減少する可能性があります。
上記のような保険リスクにより、収益が大幅に減少もしくは保険費用等に多額の追加費用が発生する可能性があり、その結果、ispace(アイスペース)の財政状態および経営成績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
②財務制限条項について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)グループの借入金のうち、複数の借入金について財務制限条項(下記A.及びB.)が付されております。ispace(アイスペース)が将来において財務制限条項に抵触した場合、財務制限条項に係る期限の利益喪失につき権利行使しないことについて各行から合意を得られる保証はなく、各行がispace(アイスペース)の期限の利益を喪失させる権利を行使した場合には、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に重大な影響を与える可能性があります。
なお、2024年3月末時点において純資産は9,745百万円であり、同時点において現預金残高は14,315百万円となっております。
A.各事業年度末日(一部の借入契約では各四半期末日)における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額を正の値に維持すること。
B.各事業年度末日(一部の借入契約では各四半期末日)における連結貸借対照表に記載される現預金の合計金額を30億円以上に維持すること。
③継続企業の前提に関する重要な事象について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)グループは多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、現在のところすべての開発投資を補うための十分な収益は生じておりません。これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
ただし、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおり、当該重要事象等を解消するための対応策を実施していること、また、自己資本の充実を目的とした機動的な資金調達の可能性を適宜検討していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
④資金調達について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)は事業活動を維持拡大するため、今後も多額の研究開発投資が必要となり、また、想定を上回る投資の増加、事業環境の変化への対応、融資契約に係る財務制限条項の遵守に向けた資金確保が事業上重要となります。ispace(アイスペース)が現在締結している融資契約の財務制限条項を遵守するため、また、ミッション3以降の将来的な顧客からの売上が当初計画よりも遅れるケースや、追加的な開発コストが必要となるケース等に備え、ispace(アイスペース)として安定的な財務基盤を維持することは重要と考えられることから、ロックアップ期間終了後の近い将来において、資金調達を実施する可能性があります。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>2.データサービス」記載の大規模データベースの実現のためには、様々な分野において、多額の研究開発投資が必要となり、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があります。例えば、ispace(アイスペース)は上記大規模データベースの実現等将来の事業規模拡大を企図した研究開発投資(以下、「先端研究開発投資」という。)を早期に実施する予定であるため、資本増強による資金調達に加え、負債調達又はその他の方法により、実施する可能性があります。ただし、当該資金調達を実施しない場合にも、既に契約済みであるミッション3顧客からの入金に加え、今後ミッション3以降の将来的な顧客から計画通りの入金を計上することが可能である場合、それらを原資として、先端研究開発投資を除いたispace(アイスペース)の運転資金を維持することが基本的に可能であると見込まれることから、追加の資金調達の手段、時期等につきましては、今後の金融環境や事業環境を踏まえつつ慎重に検討していく予定であり、追加の資金調達の全額又は一部を実施しない可能性もあります。
しかしながら、ispace(アイスペース)が将来において想定する上記の資金調達が出来ない場合や、必ずしも望ましい条件での資金調達ができない場合等は、ispace(アイスペース)がキャッシュ・フロー不足に陥る可能性や、ispace(アイスペース)の事業を支えかつこれを成長させるために必要な投資を行うことができない可能性や、ispace(アイスペース)のミッションの一部の遅延又は中止を余儀なくされる可能性や、ispace(アイスペース)が財務制限条項を遵守できなくなる可能性があり、これによりispace(アイスペース)が将来の支出計画又は事業活動の一部を遅延又は断念しなければならなくなるおそれや、ispace(アイスペース)の競争力に悪影響が生じるおそれがあります。また、ispace(アイスペース)は、上記の資金調達以外にも、今後、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があるところ、継続的な資本調達のためにispace(アイスペース)株主に希薄化をもたらす株式発行が繰り返し行われる可能性があります。さらに、借入れによる調達を行う場合には、財務制限条項その他の条項が設定されることにより、ispace(アイスペース)の事業活動が制約される可能性があります。
⑤ispace(アイスペース)実績について
ランダー及びローバーの開発に当たっては、研究開発費の支出や優秀な技術者の採用等、先行的な投資が必要であり、結果としてispace(アイスペース)は創業以来営業赤字を継続して計上しております。今後も開発部門におけるスケジュール管理、財務部門によるコスト管理及び各開発段階におけるレビュープロセスによるクオリティ管理を実施することで開発を着実に推進するとともに、事業収益の安定化に向けて引き続き中長期的に持続可能な顧客市場の開拓を進めていく方針にあります。しかしながら、ispace(アイスペース)の技術は現時点では完全には実証されておらず、また、ispace(アイスペース)が属する市場は新しい市場であることから、今後のispace(アイスペース)の利益を正確に予測することには困難が伴い、想定通りの開発計画・顧客開拓が進まない場合、ispace(アイスペース)サービスに対する需要が想定通りに集まらない場合、当該投資に見合った収入が得られない場合、或いは想定外の費用が生じた場合等には、想定通りのタイミングで利益を上げることができず、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に重要な悪影響を及ぼす可能性があります。
また、本書提出日時点において、データサービスについては売上実績がないことから、ispace(アイスペース)の過年度の業績はispace(アイスペース)を評価するために十分な材料とはならず、今後の業績を判断する情報としては不十分な可能性があります。
⑥収益認識に係る会計処理について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
ispace(アイスペース)は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号 2021年3月26日)を適用しており、約束した財又はサービスの支配が顧客に移転した時点で、当該財又はサービスと交換に受け取ると見込まれる金額で収益を認識しております。ミッション1、ミッション2及びミッション3においては履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないため、原価回収基準を適用しており、3回のミッションを経たミッション4以降は履行義務の充足に係る進捗度を総原価の発生割合により見積る方法で収益認識を実施することを検討しております。また、進行度の見積りに利用する総原価からは、「収益認識に関する会計基準の適用指針」の22項に準じて打上コストを除いた原価を用いることを想定しております。ただし、実際の会計処理は将来の顧客との契約締結後において個々の契約内容に従い決定されるものであることから、適用される実際の会計処理は上記と異なる可能性があります。特に、ispace(アイスペース)が想定する総原価からの打上コストの控除については、下記4つの要件すべてが満たされる必要があり、個別の契約内容を確認の上最終的な会計処理を決定してまいります。
A. 当該財が別個のものではないこと
B. 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当程度前に、顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること
C. 移転する財のコストの額について、履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること
D. 企業が当該財を第三者から調達し、当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと
実際の契約内容を検討した結果、ispace(アイスペース)の想定する会計処理が適用されない場合には、認識する収益総額は変動しないものの、収益認識タイミングが想定と異なるものとなり、期間損益に影響を与える可能性があります。
⑦ispace(アイスペース)四半期業績について
ispace(アイスペース)の四半期および年間の経営成績はさまざまな理由により変動する可能性があり、その多くはispace(アイスペース)がコントロールできないものです。こうした変動により、ispace(アイスペース)の四半期業績がアナリストや投資家の予想を下回り、ispace(アイスペース)普通株式の株価が下落する可能性があります。そのため、将来の業績を示す指標として、ispace(アイスペース)の過去の四半期決算や年次決算との比較は適切ではありません。また、急速に発展する市場において企業が頻繁に遭遇するリスクや不確実性も考慮する必要があります。ispace(アイスペース)の四半期または会計年度の業績は、事業等のリスクに記載されているさまざまなリスク要因のほか、以下のような数多くの要因によって影響を受ける可能性があります。
・将来のミッションの打ち上げと完了を成功させる能力、およびそのようなミッションの打ち上げと完了のタイミング
・ispace(アイスペース)が顧客との契約を締結するタイミング、ミッションの打上げのタイミングと搭載ペイロード重量(ispace(アイスペース)がミッションの売上高と売上原価の大部分を認識するのは、契約を締結してから打上げまでの間であると想定しているため)
・収益認識に関する会計処理(最初の3ミッションについては原価回収基準を適用しており、ミッション4から収益認識に工事進行基準を採用する可能性がありますが、これは前項「⑥収益認識に係る会計処理について」で記載したとおり、未確定です)
・販売関連費、研究開発費、その他の営業費用の増加額および増加時期
・ispace(アイスペース)が今後展開可能性のある新サービスの展開時期とその進捗
・競合の変化による影響とその変化への対応
・ispace(アイスペース)の既存事業と将来の成長を管理する能力
・ispace(アイスペース)のサービスの中断や撤退による影響(これらがミッション打ち上げ前に発生した場合、ミッションの遅延や追加費用の発生を招く可能性があります)
・ミッション開発の遅れ、ミッション費用の削減、またはその他の理由によるミッション費用の認識の遅れにより、原価回収基準による売上高の認識遅れ
・不利な訴訟判決、示談、その他の訴訟関連費用などの不測の事態
・特に当業界に影響を与える経済および市場の状況
・自然災害、公衆衛生問題、その他の開発など、制御不能な事象の影響
⑧株式価値の希薄化について
前記「(3)④資金調達について」記載のとおり、ispace(アイスペース)の事業においては、継続的に外部からの資金調達が必要となる可能性があり、その手段として、株式発行が繰り返し行われた場合には、ispace(アイスペース)の株式価値が希薄化する可能性があります。
また、ispace(アイスペース)は、業績向上に対する意欲向上を目的としてストック・オプション制度を導入しており、会社法の規定に基づく新株予約権をispace(アイスペース)グループの従業員に付与しております。2024年3月末現在、新株予約権の対象となっている株数は6,567,640株であり、ispace(アイスペース)発行済株式総数の93,131,848株に対する潜在株式比率は7.1%に相当しております。これらの新株予約権が行使された場合は、ispace(アイスペース)の株式価値が希薄化する可能性があります。
⑨配当政策について
ispace(アイスペース)は、株主に対する利益還元を経営課題と認識しており、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元政策を決定していく所存であります。
しかしながら、ispace(アイスペース)は成長過程にあり内部留保が充実しているとはいえず、創業以来配当を行えておりません。また、現時点ではミッションの達成に向けた研究開発投資等に充当し、事業拡大を目指すことが株主に対する最大の利益還元に繋がると考えております。
将来的には、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元を行うことを検討してまいりますが、現時点において配当実施の可能性及びその実施時期については未定であります。
⑩海外募集による調達資金使途について
2024年3月に実施した海外募集により調達した資金の使途につきましては、主にミッション3の実行にむけた研究開発資金に充当する予定であります。しかしながら、ispace(アイスペース)グループが属する業界の急速な変化により、当初の計画通りに資金を使用した場合でも、想定通りの投資効果をあげられない可能性があります。
⑪内部管理体制について
ispace(アイスペース)では、今後の事業運営及び業容拡大に対応するため、内部管理体制について一層の充実を図る必要があると認識しており、業務の適正性及び財務報告の信頼性の確保、さらに健全な倫理観に基づく法令遵守の徹底のため内部管理体制を充実・強化させていく方針であります。しかしながら、事業規模に応じた内部管理体制の整備に遅れが生じた場合は、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(4)ispace(アイスペース)その他のリスク
①ビジネスモデルについて
ispace(アイスペース)のビジネスモデルや宇宙産業は草創期にあり、成長可能性の評価には多くの不確実性が伴います。特に、本書提出日現在、ispace(アイスペース)はミッション完遂の経験を有していないため、ispace(アイスペース)のビジネスモデルの実行可能性を評価するための実績がありません。「Ⅱ.ビジネスモデル等の自社の事業に関するリスク(1)ispace(アイスペース)開発・ミッションに関するリスク①ミッションの未達について」をご参照ください。
ispace(アイスペース)のビジネスモデルは、地球と月の間に広がるシスルナ経済圏、関連する輸送・データサービス市場が将来成長するという前提に立っております。上述のとおり、シスルナ経済圏の将来的な発展には多くの不確定要素があり、また、シスルナ経済圏もまた草創期のため、その予測は困難です。例えば、ispace(アイスペース)のビジネスモデルでは、シスルナ経済圏がPwCの「ロードマップ評価」に基づいて発展すると仮定していますが、この評価では、ispace(アイスペース)の「ムーンバレー2040」ビジョンに沿って、2040年以降に1,000人が月面で生活し、仕事をするようになると想定しています。一方、シスルナ経済圏の実際の成長は、このロードマップ評価とは大きく異なる可能性があります。さらに、シスルナ経済圏の発展に関するispace(アイスペース)のその他の重要な仮定(月の水の量とアクセス可能性、将来の宇宙活動における水の需要、月の水を利用するためのコストなど)は推測に基づくものであり、将来的に不正確であることが判明する可能性があります。さらに、月データサービス市場の発展は、月輸送市場よりも長期間にわたると予想されるため、この市場の成長に関するispace(アイスペース)の仮定は、月輸送市場に関する仮定よりもさらに不確実となります。
シスルナ経済圏の発展に関する不確定要素に加え、ispace(アイスペース)の事業展開自体にも、事業歴が浅い故の不確定要素が存在しております。ispace(アイスペース)のビジネスモデルは、合理的と考えられる複数の仮定のもと構築されておりますが、これらの仮定は将来不正確であることが判明する可能性があります。これらの仮定に関するリスクに以下のようなものが含まれますが、これらに限定されるものではありません。
・ミッションスケジュールは、本「事業等のリスク」のセクションの他の箇所で説明されているものを含め、多くの要因に基づいて変更される可能性があります。ispace(アイスペース)は過去に複数回ミッションスケジュールを延期しており、今後も延期する可能性があります。
・ispace(アイスペース)は、ミッションの頻度や各ミッションの販売可能なペイロード重量が時間の経過とともに増加し、それに伴い将来的にispace(アイスペース)のペイロードサービスに対する顧客からの一定の需要増加を想定しております。しかし、こうした想定は、今から何年も先に計画される将来ミッションに関するものもあり、特にそうした想定需要のほとんどは法的拘束力のないMOU等さえ締結していないため、大部分が推測に基づきます。さらに、ビジネスモデルの検討にあたり現在締結済みのPSA及びMOU等の契約を考慮にいれておりますが、これらの契約に基づき想定される需要が将来のミッションにおける実際の顧客ペイロード需要と一致する保証はありません。したがって、実際の需要の水準や、その期間にわたってペイロードサービスを供給するispace(アイスペース)の能力は不確実性が高く、ispace(アイスペース)の現時点における想定と大きく異なる可能性があります。
・ispace(アイスペース)のペイロードサービスに対する需要が十分にある場合であっても、ペイロードの構成等により想定以上にペイロードの搭載容量を消費し、販売可能なペイロード重量が想定より減少する可能性があります。また、歩留まり率の向上も想定しておりますが、設計上の技術的制約、想定を下回る需要、ispace(アイスペース)の顧客獲得能力による制約、その他の要因により、歩留まり率の向上を実現できない可能性があります。
・ispace(アイスペース)のビジネスモデルは、締結済みのPSAに加え法的拘束力のないMOU等の価格設定やその他の仮定に基づいて、ペイロードサービスの価格設定を想定しています。しかし、実際の価格設定は、競争の激化や、主要な政府出資プログラムの価格決定力を含むその他の要因により、想定よりも低くなる可能性があります。さらに、月周回軌道に投入する場合の価格設定は、月面着陸のペイロードよりも低くなると想定しています。従って、将来の顧客とサービスの組み合わせにより、ispace(アイスペース)の価格設定の前提がビジネスモデルで想定したものと大きく異なる可能性があります。現在、これらのサービスには確立された市場がなく、ispace(アイスペース)のペイロードサービスの価格は時間の経過とともにある程度下落すると想定していますが、これらの予測は、現在想定している競合環境、需要、コストを基に作成しており、その実現に相応の不確実性が見込まれます。
・ミッション4(ミッション3の収益認識期間がミッション4の収益認識期間と重複する場合はミッション3の一部を含む)から収益認識方針を原価回収基準から工事進行基準に変更する想定ですが、この変更が遅れる可能性があり、結果各ミッションの打上げ前に認識・計上される売上高が想定よりも小さくなる可能性があります。
・ispace(アイスペース)の実際のコストは、さまざまな要因により、想定を上回る可能性があります。例として、打上コストの増加、ミッションを重ねることでランダー開発等に係るコスト削減を実現できないこと、研究開発コストが現在の計画を上回ること等、が考えられます。
これらまたはその他のリスクや不確実性が存在するため、ispace(アイスペース)が想定する売上高と費用は、ispace(アイスペース)の実際の将来の売上高や費用を示すものではありません。ispace(アイスペース)の実際の将来の売上高および費用は、シスルナ経済圏の発展およびispace(アイスペース)の事業に関連する多くの要因に左右され、ispace(アイスペース)の想定と大きく異なる可能性があります。
②将来の不確実性について
ispace(アイスペース)は2010年以降、宇宙輸送・インフラサービスの開発に注力してきましたが、これまでは主に研究開発業務に注力してきたため、パートナーシップサービスやミッション1、2、3に関する顧客からの支払いを中心に、比較的限定的な売上高しか計上しておらず、ミッションの打上げは1件のみで、まだミッションの成功には至っておりません。特に、ペイロード事業については2020年4月から売上高を計上開始したばかりであり、データサービスについてはまだ売上高を計上していません。このような限られた事業歴により、ispace(アイスペース)の将来の見通しやispace(アイスペース)が遭遇する可能性のあるリスクや課題を精確に評価することは困難です。ispace(アイスペース)が直面した、あるいは直面すると予想されるリスクや課題には、以下のようなものがあります。
・売上高予測および支出管理・予算管理
・新規顧客の獲得及び既存顧客の維持
・効率的な事業運営と成長の継続(現在および将来のランダー、ローバーおよびサービスのための資本的支出の計画と管理、またそれに関連するサプライチェーンおよびサプライヤーとの関係構築を含む)
・法規制等の遵守(輸出管理規制等、ispace(アイスペース)の事業に適用される既存および新規または変更された法律および規制)
・マクロ経済の変化やispace(アイスペース)が属する市場の変化の予見および対応
・ispace(アイスペース)の評判とブランド価値の維持・向上
・知的財産の創出と保護
・組織のあらゆる階層で有能な人材の採用、育成、定着
ispace(アイスペース)が直面するリスクや困難(上記に関連するものや、本「事業等のリスク」の他の箇所に記載されているものを含む)に対処できない場合、ispace(アイスペース)グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。さらに、ispace(アイスペース)はまだミッションを完了しておらず、急速に発展する市場で事業を展開しているため、本書記載の過去の財務情報は、ispace(アイスペース)の将来の財務実績や成長見通しを評価する上で限定的な情報となります。ispace(アイスペース)は過去にも、また将来にも、急速に変化する業界において、事業歴の浅い成長企業が頻繁に経験するリスクや不確実性に遭遇する可能性があります。ispace(アイスペース)が事業計画や事業運営に使用しているこれらのリスクや不確実性に関する前提が誤っていたり変更されたりした場合、またはこれらのリスクにうまく対処できなかった場合、ispace(アイスペース)の業績はispace(アイスペース)の予想と大きく異なる可能性があり、ispace(アイスペース)グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。
③海外事業展開について
ispace(アイスペース)グループは、海外への事業展開にも取り組んでおり、ルクセンブルク大公国及び米国に連結子会社を有しております。これら子会社が所在している国の政治・経済・社会情勢・法規制等の影響により、事業遂行の不能等のカントリーリスクが顕在化する可能性があります。
さらに、海外での事業活動においては、ispace(アイスペース)の企業文化を保ちつつ優秀な人材を確保することが困難となるリスク、宇宙産業や宇宙資源開発に関する法規制に関するリスク、雇用や労働慣行に関する現地法規制に関するリスク、言語・慣習の違いや地理的分散によって経営陣によるコミュニケーションが困難となるリスク、輸出入規制・課税に関するリスク、法規制の変更に関するリスク、法規制の遵守に関するリスク、贈賄規制に関するリスク、知的財産権の保護に関するリスク、新型コロナウイルスを含む公衆衛生や渡航制限に関するリスク、政治・経済状況に関するリスク等が存在し、これらが顕在化した場合、ispace(アイスペース)グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
④成長の継続について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
私たちは事業拡大を続け、現在では日本、米国、ルクセンブルグにオフィスを構えており、将来の成長を支えるために今後も人員を増やしていく予定です。計画通りに事業が成長し続ければ、営業・マーケティング、研究開発、サービス提供部門等を拡大する必要があります。ispace(アイスペース)の成長を継続するためには、業務および管理プロセスとシステムを改善し続け、多数の有能な従業員を雇用、育成、モチベートしなければなりません。社内のリソースを効率的に拡大できなければ、ispace(アイスペース)の事業成長能力が損なわれる可能性があります。ispace(アイスペース)の事業が成長を続け、より複雑な組織構造を導入する必要が生じた場合、費用対効果が高く、効率的かつタイムリーな方法でispace(アイスペース)のサービスを維持・改善することがますます困難になる可能性があります。
現在計画されている通りに、あるいは計画された期間内に事業を拡大できるという保証はありません。ispace(アイスペース)の継続的な成長により、ispace(アイスペース)のリソースへの負担が増大する可能性があり、従業員の雇用や育成、月着陸船や月面探査車、関連機器を製造する第三者の製造能力の確保の難しさ、製造の遅延等に直面する可能性があります。さらに、事業規模の拡大に見合った内部統制を維持・改善できなかった場合、サービスや業務の質の低下を招き、ispace(アイスペース)の評判を損なう可能性があります。こうした状況は経営陣や管理職が事業成長に集中できない環境を招き、財務および経営成績に影響を与える可能性があります。ispace(アイスペース)が相応の成長を継続できない場合、利益率や営業成績の低下に至り、ispace(アイスペース)グループの事業、財務状況、経営成績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤システム障害等について
ispace(アイスペース)では、社内システムのセキュリティ対策やネットワークの監視等を行い、安定的に運用できるように対策を講じておりますが、サイバー攻撃や不正アクセス等により重要データの流出が発生した場合、ITインフラ機器の障害、コンピューターウイルスへの感染、自然災害、その他不測の事態が生じることによりシステムトラブル等が発生した場合や、第三者によるデータの不正使用等が生じた場合には、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、本書提出日時点においてispace(アイスペース)のデータサービスについてのデータシステムを構築しておらず、当該システムの構築やアップデートを適切に行えない場合、想定以上に期間を要する場合や、当該システムに障害が生じた場合には、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑥ispace(アイスペース)グループのイメージ及びブランドについて
ispace(アイスペース)の事業活動において、イメージ及びブランドは、既存顧客との関係維持又は新規顧客の獲得にとって重要な要素であると認識しています。ミッション未達や遅延、ispace(アイスペース)サービスの不具合、サイバー攻撃、顧客データの管理に関する問題について、ispace(アイスペース)にとってネガティブな報道がされた場合、ispace(アイスペース)に不利益な風説が流布した場合、ispace(アイスペース)の従業員又は経営陣による違法又は不適切な行為のあった場合その他ispace(アイスペース)のイメージやブランドに悪影響を与える事態が生じた場合や、同業他社に事故等が生じることにより月面探査に対するイメージが低下する場合には、ispace(アイスペース)の顧客が離反する又はispace(アイスペース)が新規顧客を獲得できなくなることにより、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、第三者がispace(アイスペース)の許可なくispace(アイスペース)のブランド、商標、ロゴ等を使用した場合には、ispace(アイスペース)のイメージやブランドに悪影響が生じ、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑦法的規制等について
ispace(アイスペース)は、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)に基づく人工衛星等の打上げに係る許認可、宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(宇宙資源法)に基づく資源の探査及び開発に係る許認可、並びに、ispace(アイスペース)完全子会社である株式会社ispace Japanで取得すべきランダー等のispace(アイスペース)宇宙機が宇宙空間から地上に向けて電波を発するに当たっての電波法等の許認可を除き、現状想定しているispace(アイスペース)の事業を制限する直接的かつ特有の法的規制は本書提出日現在において存在しないと考えております。宇宙活動法、宇宙資源法及び電波法については、ispace(アイスペース)が実施する各打上ミッションごとに許認可を取得する必要がありますが、ミッション1の宇宙活動法に係る許認可については関係省庁との協議を実施し、2022年11月4日付で許認可を取得しております。宇宙資源法に関しましても、同様に2021年12月23日施行後に関係省庁とコンタクトを取り始め、2022年11月4日付で許認可を取得いたしました。また、電波法に関しては、免許取得の前提となる国際電気通信連合(ITU)との宇宙空間で使用する電波の周波数の調整が完了し、電波法に基づく無線局免許取得に向けた総務省とミーティングを重ね、2022年9月7日付で予備免許を取得しております(本免許につきましては、制度上、ミッション1においてispace(アイスペース)のランダーが月面に着陸した後に取得する予定となっておりました。)。
上記以外にも、ispace(アイスペース)が事業収益を見込む市場は、現在グローバルでも草創期に当たっており、今後ispace(アイスペース)の事業を直接的に制限する法的規制がなされた場合には、ispace(アイスペース)の事業展開は制約を受ける可能性があります。例えば、上記の宇宙資源法上、ispace(アイスペース)が採掘等をした宇宙資源について、当該採掘等をした者が所有の意思をもって占有することによってその所有権が認められていますが、今後の国際的枠組み等で所有権を規制された結果、所有権に関して制約を受ける可能性は否定されません。また、いわゆる宇宙5条約等についても、惑星汚染への対策(宇宙条約第9条)、及び、第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)等においてispace(アイスペース)の事業活動に影響を及ぼす可能性があります。「資源採取の適法性(宇宙条約第2条)」については、月面で展開をするispace(アイスペース)の宇宙機(又はispace(アイスペース)ランダーに搭載した他社のペイロード)が月面の環境を汚染しないかという問題がありますが、国際宇宙空間研究委員会が定める惑星保護方針に準拠する方法でispace(アイスペース)事業を進めるよう準備をしており、宇宙条約第9条がispace(アイスペース)事業の障害となるおそれ(問題の発生可能性)は低いものと考えております。また、「第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)」につきましては、打上ロケットから切離し後に仮にispace(アイスペース)の宇宙機が第三者に損害を与えた場合には「打上国」である日本が責任を負う可能性があり、その場合には生じた損害につき、ispace(アイスペース)も求償を受けるリスクがありますが、他衛星への衝突リスク等については、(i)宇宙活動法に基づく打上許可に際して内閣府にて事前に十分審査されておりますのでそのリスクは低いと考えており、また、(ii)宇宙損害責任条約上は宇宙空間で生じた第三者損害については「過失責任」であるところ、法的には宇宙空間で生じた損害については予見可能性がないという点で「無過失」を主張する余地も残されていることから、現時点でispace(アイスペース)事業の大きな障害となる規定ではないと評価しております。なお、打上ロケット切離し前の第三者損害に関しましては、打上業者であるSpaceXが責任を持つ契約内容となっておりますので、基本的にispace(アイスペース)の事業上のリスクは極めて低いと理解しております。ispace(アイスペース)としては引き続き法令を遵守した事業運営を行うべく、法令順守体制の強化や社内教育等を行っていく方針ですが、今後ispace(アイスペース)の事業が新たな法的規制の対象となった場合には、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
加えて、ispace(アイスペース)では、ITAR(武器国際取引に関する規則)、EAR(米国輸出規則)及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の対象となる技術情報を取り扱っております。ispace(アイスペース)においては米国製の慣性航法装置がITAR管理品に該当し、ランダー開発に用いる品目にはEAR及び外為法管理品が多数含まれることから、輸出管理を統括する専門部署を設置し厳格に輸出管理を行っております。また、輸出管理規制に関してeラーニングによる社内研修を実施することで全役職員への周知徹底も図っておりますが、規則を遵守できなかった場合には法的な処分を受け、また、社会的な信用の失墜等を招き、ispace(アイスペース)グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑧特定人物の依存について
ispace(アイスペース)の代表取締役CEOである袴田武史は、ispace(アイスペース)の創業者であり、設立以来ispace(アイスペース)の経営方針及び事業戦略の立案や、その遂行において重要な役割を担っております。ispace(アイスペース)は特定の人物に依存しない体制を構築すべく、幹部社員への情報共有や権限の委譲によって代表取締役CEOに過度に依存しない組織体制の整備を進めておりますが、何らかの理由により代表取締役CEOのispace(アイスペース)における業務遂行が困難になった場合やその他のispace(アイスペース)経営陣及び重要な従業員がispace(アイスペース)から離職する場合、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑨人材の確保と育成について
ispace(アイスペース)が今後更なる成長を成し遂げていくためには、優秀な人材の確保が重要課題の一つであると認識しております。ispace(アイスペース)は現在も人材紹介会社を利用した中途採用を実施し、従業員からの紹介による採用(リファラル採用)制度を導入するとともに外部業者を活用する等、多様なチャネルを用いて優秀な人材の確保を進めておりますが、ミッション数の増加やデータサービスの立ち上げ及び拡充に伴う今後の事業拡大のためにはより一層の多様かつ優秀な人材採用が必要となります。これらの人材を十分に採用できない場合や、あるいは在職中の優秀な従業員が退職する等した場合には、ispace(アイスペース)の事業拡大の制約となり、その結果、ミッションの遅延が生じる等、ispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑩知的財産権について
ispace(アイスペース)は、事業運営の際に第三者の知的財産権侵害等が起こらないよう、弁護士事務所への照会等を実施し慎重に調査・検討を行っておりますが、第三者の知的財産権に抵触しているか否かを完全に調査することは極めて困難であります。このため、知的財産権侵害とされた場合には、損害賠償又は当該知的財産権の使用に対する対価の支払等が発生する可能性があり、その際にはispace(アイスペース)の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、ispace(アイスペース)の知的財産権が第三者により侵害された場合、営業秘密、ノウハウその他機密情報が外部に流出した場合には、ispace(アイスペース)の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、ispace(アイスペース)のペイロードが獲得するデータに対して適切な保護が得られない場合には、今後のispace(アイスペース)の事業、特にデータサービスにおけるデータプラットフォームの構築等に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑪訴訟、係争について
ispace(アイスペース)では、本書提出日現在において業績に重大な影響を及ぼす訴訟や係争は生じておりません。
しかしながら、今後何らかの事情によってispace(アイスペース)に関連する訴訟、係争が行われる可能性は否定できず、かかる事態となった場合、その経過又は結果によってはispace(アイスペース)グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
※金融庁に提出された有価証券報告書のデータを使用しています。
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