(1)サンバイオの事業領域
サンバイオグループ(以下、サンバイオ及びSanBio, Inc.(米国カリフォルニア州オークランド市)2社を指します。)は「再生医療の開発を通して、患者さんをはじめとしたステークホルダーの皆さまへ価値を提供する」ことをコーポレート・ミッションに掲げ、日米において細胞治療薬の研究、開発、製造及び販売を手掛ける再生医療事業を展開しています。サンバイオグループでは、主に中枢神経系の疾患(眼科を含む)における、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等のアンメットメディカルニーズの高い疾患を対象とした治療薬の販売を目指しています。
≪細胞治療薬とは≫
サンバイオグループが手掛ける細胞治療薬は、病気・事故等で失われた身体機能の自然な再生プロセスを誘引ないし促進させ、運動機能、感覚機能、認知機能を再生させる効能が期待される医薬品です。
(2)事業の内容
サンバイオグループは、サンバイオ及びSanBio, Inc.(米国カリフォルニア州オークランド市)2社により構成されています。サンバイオ設立は2013年2月ですが、SanBio, Inc.は2001年2月の設立しており、一貫して細胞治療薬の研究開発を進めています。
大学等の研究機関から導入した技術をサンバイオグループにおいて製造開発、非臨床試験、臨床試験等を実施し、医薬品の販売網を有するパートナー製薬会社に開発権及び販売権をライセンス許諾することで(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給に係る収入を得るビジネスモデルとなっています。収入形態の内容は以下のとおりです。ライセンス許諾のタイミングは、ヒトでの安全性と有効性を確認する(Proof of concept)段階まで開発を進めた時点を想定しています。
≪サンバイオグループの収入形態≫
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収入形態 |
内容 |
A |
契約一時金 |
ライセンス許諾の契約時の一時金として得られる収入。 |
B |
マイルストン収入 |
開発進捗に応じて設定したいくつかのマイルストンを達成するごとに一時金として得られる収入。上市後は予め設定した売上マイルストンの達成ごとに一時金として得られる収入。 |
C |
開発協力金 |
開発費用のうち、ライセンスアウト先負担分として得られる収入。 |
D |
ロイヤルティ収入 |
製品売上のうち、ロイヤルティとして一定割合を得られる収入。 |
E |
製品供給収入 |
製品供給の対価として得られる収入。 |
サンバイオグループの収入は、開発段階においては、(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金のいずれか、又はすべてで構成されます。製品上市後は、売上マイルストンに関する(B)マイルストン収入のほか、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給収入がサンバイオグループの主な収入形態となります。(D)及び(E)は製品売上の一定割合として支払われるため、製品売上に比例的に伸長することになります。
※条件及び期限付き承認を取得したアクーゴⓇについては、自社での販売を想定しています。
(3)開発の状況
① サンバイオグループが手掛ける細胞治療薬
サンバイオグループが開発を進める細胞治療薬はSB623(間葉系幹細胞、対象疾患は慢性期脳梗塞、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等)、SB618(機能強化型・間葉系幹細胞、対象疾患は末梢神経障害等)、SB308(骨格筋幹細胞、対象疾患は筋ジストロフィー等)、MSC1(間葉系幹細胞、対象疾患はがん疾患等)、MSC2(間葉系幹細胞、対象疾患は炎症性疾患等)の5種類です。
当連結会計年度末時点での研究開発パイプラインの進捗状況を以下の表に示します。
サンバイオグループでは、バックアップとなりうる製品を用意しつつも、主たる製品候補である細胞治療薬SB623(間葉系幹細胞)における各種対象疾患での開発を最優先に進める方針です。
※1: 「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善」を効能・効果とする
※2: これまでの慢性期脳梗塞及び慢性期外傷性脳損傷の臨床試験で安全性が確認できているため、フェーズ2b臨床試験以降から開始
※3: OcuMension(Hong Kong) Limited社との共同開発
※4: D&P Bioinnovations, Inc社と食道再生インプラントの開発及び商業化に関する業務提携
≪SB623の概要≫
SB623は「脳の再生」を促す世界初の治療薬です。脳内の損傷した神経組織に移植することで、複数のタンパク質等が放出され、損傷した神経細胞が本来持つ再生能力を促し、神経細胞の増殖・分化を促進する効果が期待されています。また、基礎試験の結果から、神経細胞の保護作用、血管新生促進作用、免疫調整作用が報告されています。
サンバイオグループが開発を手掛ける細胞治療薬は、患者本人の細胞を処理して再度患者に戻す形態の医療サービス(自家移植の再生医療)ではなく、健康なドナーから採取した細胞を加工・培養して均質な細胞を大量製造して製品化した他家由来の医薬品です。同一の製品で多くの患者を同様に治療できるため、製品承認取得後には迅速な普及が見込まれます。健常者の骨髄液から得られるMarrow Adherent Stem Cells(MASC細胞)に、Notch-1遺伝子を一過性に導入し、さらに培養して得られる細胞を分注して凍結保存した間葉系幹細胞が最終製品SB623です。
SB623は慢性期外傷性脳損傷や慢性期脳梗塞等の脳神経疾患の場合には、定位脳手術と呼ばれる既に脳神経外科では広く普及した手技により、局所麻酔で安全に投与可能です。長期入院は不要で、投与に当たっては免疫抑制剤も不要で、通常の医薬品と同様に、同一の製品を全ての患者を対象に使用することが可能です。
作用メカニズムについては、複合的な作用で神経機能の再生を促進しているものと考えられます。投与したSB623は、投与後約1~2カ月間の比較的早い時期に液性の神経栄養因子や不溶性の細胞外マトリクスを分泌することで、体の自然な再生プロセスを促進させていると考えられます。具体的には(A)神経保護(神経細胞をまもる)、(B)神経新生(神経細胞をつくる)、(C)血管新生(血管をつくる)、(D)抗炎症(炎症を抑える)、(E)バイオブリッジの形成(成人の脳の奥深いところに僅かに存在する神経細胞の元である神経幹細胞を誘引ないしは増幅する)等複合的に作用することを示唆するデータが確認されています。
特に、上記作用メカニズムのうち(E)については、通常、脳が損傷を受けた場合、損傷部位で新たに神経細胞がつくられることはありませんが、同じ条件下でSB623を損傷部周辺に移植すると、その作用により、脳の奥深くに僅かに存在していた神経幹細胞が誘引ないしは増幅され損傷部位まで到達できるようになります。この結果、損傷部位で新たな神経細胞がつくられることになります。こうした作用データが非臨床試験(In Vivo試験)において確認されています。
② SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの開発状況
外傷性脳損傷は、世界中の主な死因および障害の原因の一つです。2016年の世界の急性外傷性脳損傷の新規患者数は2,700万人(推定)、外傷性脳損傷に続発する慢性障害の患者数は5,550万人(推定)でした※1。外傷性脳損傷及び外傷性脳損傷に続発する長期に渡る運動機能障害は、患者さんの自立、雇用、およびQOLを著しく損ない、総じて各国の医療システムの大きな負担になっています。米国では、外傷性脳損傷で入院し生存した患者さんの約43%が長期の運動機能障害を経験しており※2、2,317万人が外傷性脳損傷に続発する運動機能障害を長期に抱えて生活していると推定されています※3。また、日本における外傷性脳損傷(TBI)の患者数は約6万人※4で、そのうち20%は後遺症を伴うと推定されています※5。
損傷を受けた脳組織の自然回復は難しいと言われており、慢性期に入り運動麻痺が定着した患者さんは、日常生活や社会生活における影響を生涯に渡って抱えることとなり、未だ有効な治療法がないことから大きなアンメットメディカルニーズが存在していました。これまで、脳の機能を回復する治療薬は存在しておらず、慢性期の外傷性脳損傷の運動麻痺における治療薬は存在しませんでしたが、アクーゴ®脳内移植用注(以下、「アクーゴ®」)は慢性期の外傷性脳損傷(TBI)の運動麻痺において、有効性・安全性の点から規制当局に認可された、世界初の新たな治療選択肢です。
サンバイオグループでは、慢性期脳梗塞用途のフェーズ1/2aにおいてSB623の安全性が示唆されたことを受けて、外傷性脳損傷を対象とした臨床試験については、フェーズ2から開始しました。日米を含むグローバル試験(二重盲検、被験者61名)として実施したフェーズ2試験については、2018年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」という良好な結果を得ました。本試験結果を踏まえて、2019年4月に厚生労働省より「先駆け審査指定制度」の対象品目の指定を受け、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議を重ね、2022年1月末日までに先駆け総合評価相談を完了し、2022年3月に厚生労働省に対して再生医療等製品製造販売承認申請(以下、「本申請」)を行いました。本申請については、2024年7月31日に厚生労働省より外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺を効能・効果として条件及び期限付き製造販売承認を取得し、SB623はアクーゴ®となりました。承認条件の一つである同等性/同質性を確認するために2回程度の市販品製造の適合を得ることを想定し製造を行い、本日までに1回の製造で、規格試験、特性解析にて全ての基準値を満たし、適合と判断されました。残り1回の適合を得るための製造は既に開始しており、これが適合である場合、その結果を用いて製造販売承認事項一部変更申請を行い、出荷解除のための承認取得を目指します。同時に、国内の製造・物流・販売体制の構築を着実に進めていきます。
最大市場となる米国市場における今後については、日本でのアクーゴ®の実績を基に、米国規制当局と臨床試験の実施に向けて協議を再開しています。引き続き、米国での慢性期外傷性脳損傷の臨床試験の推進を行っていきます。
なお、慢性期外傷性脳損傷を対象としたSB623については、「先駆け審査指定制度」の対象品目指定に加え、厚生労働省から「希少疾病用再生医療等製品」の指定を、米国食品医薬品局(FDA)からは、RMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy)の指定を受けています。
<出典>
※1: James SL, et al. “Global, regional, and national burden of traumatic brain injury and spinal cord injury, 1990- 2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.” Lancet Neurol 2019;18:56-87.
※2: Selassie AW, et al. “Incidence of long-term disability following traumatic brain injury hospitalization, U.S.”, 2003. J Head Trauma Rehabil 2008;23:123-31
※3: Zaloshnja E, Miller T, Langlois JA, Selassie AW. Prevalence of long-term disability from traumatic brain injury in the civilian population of the United States, 2005. J Head Trauma Rehabil. 2008 Nov-Dec;23(6):394-400.
※4: 厚生労働省患者調査 2020 「19損傷,中毒及びその他の外因の影響(頭蓋内損傷)」の患者数
※5: 厚生労働省患者調査 2020 「T905頭蓋内損傷の続発・後遺症」の患者数
③ SB623慢性期脳梗塞プログラムの開発状況
脳梗塞は血栓が脳の血管に詰まるために引き起こされ、脳の神経細胞に十分な血液が供給されなくなる病気です。
発作後数時間までの急性期を過ぎるとリハビリ以外に対処方法が無く、さらに6カ月を過ぎ慢性期に入ると大半の場合、それ以上の改善を期待することはできないとされています。
サンバイオグループでは、2011年より、慢性期の脳梗塞患者に対して、SB623の安全性と有効性を評価するためのフェーズ1/2a臨床試験を米国にて実施し、この結果、SB623に起因する重篤な副作用は認められないこと(安全性)と、SB623が慢性期脳梗塞患者の運動機能を改善する可能性があること(有効性の示唆)が確認されました。
本フェーズ1/2a臨床試験に続き、2015年12月には、米国でのフェーズ2b臨床試験(二重盲検、被験者163名)を開始し、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。しかし、2020年9月には、STR-02試験の追加解析として、梗塞巣サイズが一定量未満の患者77名(当試験組み入れ患者全体の47%)を対象に、複合FMMSエンドポイントを用いてSB623の投与から6カ月後における有効性を評価したところ、偽手術群26名のうち19%の改善に対し、SB623投与群51名のうち49%において改善が見られ、統計学的に有意な結果(P値=0.02)を得ました。本追加解析結果を踏まえて、慢性期脳梗塞における新たな臨床試験の実施に向けて、日米の規制当局との協議を進める予定です。
④その他のパイプラインの開発状況
≪SB623慢性期脳出血プログラム≫
上記の慢性期外傷性脳損傷プログラムの良好な結果を受けて、外傷性脳損傷と類似性がある慢性期脳出血プログラムをパイプラインに追加しました。脳出血は、血管が詰まって引き起こされる脳梗塞に対して、血管が破れることで引き起こされる疾患であり、半身麻痺、感覚障害又は記憶障害等の症状が起こりますが、現状では根治治療は存在していないとされています。サンバイオグループとしては、現在、本プログラムの臨床試験は、フェーズ2又はフェーズ3からの開始を見込んでおり、今後準備を進めていきます。
≪SB623網膜疾患プログラム≫
SB623は強い神経保護作用を持つことから、網膜疾患への適応も期待されます。
対象となる網膜疾患の主なものとしては、加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などがあげられます。これらのうち、サンバイオグループで最初に取り組んでいるのは加齢黄斑変性です。カメラでいえば光を感知するフィルムに相当する膜が網膜ですが、この中心部に黄斑とよばれる部分があり、ものを見るときに大切な働きをしています。加齢にともなって黄斑が異常をきたし、徐々に網膜の細胞が死滅していく結果、視力が低下していくのがドライ型加齢黄斑変性です。患者数が多い一方、有効な治療法が存在せず、新たな治療法の確立が期待されています。
網膜疾患用途では初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針の中、2020年3月に、Ocumension(Hong Kong)Limitedと中華圏における網膜色素変性症及び加齢黄斑変性症(ドライ型)等を対象疾患とした共同開発を行なう契約を締結しました。現在、Ocumension(Hong Kong)Limitedとの共同開発の枠組みの中で非臨床試験を開始し、臨床試験開始に向けたデータの取得を進めています。なお、中華圏以外の開発及び販売に係る権利はサンバイオグループでのみ留保しています。
≪SB623その他の疾患への展開≫
パーキンソン病、脊髄損傷では動物試験で良好な結果が得られており、今後は臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施します。アルツハイマー病等その他の疾患については非臨床試験(In Vivo試験)において適応可能性について検討していきます。
その他の用途においても、初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針であるため、現段階において、開発及び販売に係る権利はサンバイオグループでのみ留保しています。
≪SB618≫
細胞治療薬SB618もSB623と同様、神経機能を再生する作用が期待される治療薬ですが、SB618はSB623とは異なった特性を持っており、機能強化型の間葉系幹細胞です。
SB618は健常者の骨髄液を原料として独自の製法で大量培養し、分注して凍結保存することで最終製品となります。この点はSB623と同様ですが、途中の製法が異なります。骨髄液からMASC細胞を得るまでの、SB623と共有した上流の製造プロセスのあと、レチノイン酸や複数のサイトカインを添加しさらに培養します。このプロセスにより間葉系幹細胞の性質が変化し、SB618の独自性を生むものと考えています。SB618は、これまでに、末梢神経障害、脊髄損傷を対象とした非臨床試験(In Vivo試験)で効果が示唆されており、今後、末梢神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症などを対象に開発を進めていきます。
≪SB308≫
細胞治療薬SB308は骨髄由来の骨格筋幹細胞です。未だ研究段階ですが、将来的には筋ジストロフィーなどの疾患への応用を視野に開発を進めます。
筋ジストロフィーは、筋肉が壊死・変性し、次第に筋力低下が進行して行く病気です。その中でも最も多いデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、筋肉の細胞骨格をつくるジストロフィンが遺伝子異常により作られなくなってしまうことにより起こります。有効な治療法は存在せず、筋力低下による呼吸障害や、心臓の機能障害により若くして亡くなるケースが大半を占めます。SB308は、筋ジストロフィーの非臨床試験(In Vivo試験)で、その応用可能性が示唆されています。
≪MSC1・MSC2≫
2018年9月にMSC1、MSC2という間葉系幹細胞由来の細胞治療薬に関する特許ポートフォリオを他社から取得しました。間葉系幹細胞の細胞膜上に存在する特定のToll様受容体を刺激することで、間葉系幹細胞の特徴である安全性及び忍容性を維持したまま抗炎症機能を増強する技術及び炎症機能を増強する技術です。
炎症機能を高めたMSC1は、通常の間葉系幹細胞が腫瘍の成長に促進的に働くのに対し、腫瘍の成長を減衰させることが非臨床試験で確認されており、がん治療薬としての開発が期待できます。高い抗炎症作用を有するMSC2は、視神経炎、多発性硬化症やクラッベ病といった脱髄疾患、糖尿病性神経障害、関節リウマチ、クローン病等の炎症性疾患に対する治療薬としての開発が期待されており、2020年3月に、Ocumension(Hong Kong)Limitedと中華圏における視神経炎を適応疾患とした細胞薬の開発及び販売権の取り決めをしました。
⑤ パートナー製薬会社との契約の締結状況
サンバイオグループは、2020年3月にOcumension(Hong Kong)Limitedと眼科領域における細胞治療薬の研究・開発・商業化を目的として、SB623及びMSC2に関して、業務提携契約を締結しました。また、2021年11月にはD&P BioinnovationsとMSC2細胞を利用した食道再生インプラントの開発及び商業化に関する業務提携契約を締結しました。それぞれの契約において、製品販売前の臨床試験段階におけるサンバイオグループの収入形態及び製品販売段階における販売権の取り決めがなされています。
今後も、サンバイオグループの保有するパイプラインにおける開発権及び販売権について、パートナー製薬会社との提携のみならず、自社販売の可能性も含め検討していきます。
(4)事業の特徴
① 収益性の確保に向けた取り組み
a. 他家移植であること
一般に再生医療は、自家移植と他家移植に分けられます。
自家移植の再生医療は、患者の細胞や組織を処理して再度患者本人に戻す形態の治療法です。この場合、細胞調製に手間がかかる等、実用化に当たっての課題が存在しています。一方、サンバイオグループが開発を進める細胞治療薬は、他家移植であり、ドナー(細胞提供者)の細胞を処理し、均質の細胞を量産化した医薬品であり、同一の製品で多くの患者を治療できるモデルとなっています。
b. 量産化技術が確立されていること
ドナーの骨髄液を培養して、均質な製品を大量に製造し、これを凍結保存して輸送し、融解して投与できる技術が確立されています。
なお、サンバイオグループが開発を進める細胞治療薬は、もともと体内に存在する骨髄液由来の間葉系幹細胞を細胞源としているため、安全性に優れており、増殖性の高いES細胞やiPS細胞由来の細胞と比較してがん化のリスクも低いと認識しています。また、倫理的な点が懸念されるES細胞由来又は中絶胎児由来の細胞に対して、健常者の骨髄液由来のSB623は、臨床現場で抵抗なく受け入れられるものと考えています。
c. 製品供給権が確保されていること
他社からライセンス導入して研究開発を行う創薬ベンチャー企業の場合、多くはパートナー製薬会社が製造を担い、自社で製品供給権を保有していないため、製品販売後は製品販売に伴うロイヤルティ収入のみとなります。
一方、サンバイオグループの細胞治療薬は、他社からのライセンス導入品ではなく、基礎段階から自社で研究開発を行ってきたサンバイオ独自の製品です。
そのため、サンバイオグループでは、パートナー製薬会社との関係において製品の製造を担うため、製品販売後は製品販売に伴う(D)ロイヤルティ収入に加え、製品供給の対価として支払われる収入を獲得することができます。
② 対象となる患者数の多さ
サンバイオグループが手掛ける細胞治療薬は、従来の医療では対応できなかった(アンメットメディカルニーズの高い)中枢神経系疾患を対象としているため、対象患者数が多いことが見込まれます。例えば、米国における外傷性脳損傷の患者数は約550万人、脳梗塞は約685万人と推計しています。
外傷性脳損傷及び脳梗塞のほか、脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病及びアルツハイマー病等、既存の医療・医薬品では対処できない多くの中枢神経系疾患に対して、細胞治療薬は機能の再生を促す新しい治療薬として期待され、製品開発に成功すれば新たな医薬品分野を切り拓くことに貢献できるものと考えています。
③ 販売に必要な知的財産を自己保有
サンバイオグループでは、開発及び製品販売に伴う、収入の極大化を目指すため、細胞治療薬の事業化に必要な知的財産を全て自社で取得することを基本方針としており、開発を進めている細胞治療薬(SB623、SB618、SB308、MSC1、MSC2)の特許は基本的に全て自社で保有しています。
2015年3月3日にサンバイオグループの細胞治療薬SB623に関する物質特許が米国において承認されました。サンバイオは、独自の細胞薬「SB623」及びその後続開発品について、物質特許のみならず、製造・用途に係る特許、及び周辺特許も取得しています。また、2024年秋にはSB623を用いた慢性期脳梗塞の細胞治療に関する米国での新規特許を取得し、最大市場である米国におけるSB623の用途特許の期間を大幅に延長することができました。今後も引き続き競争力の源泉となる知的財産権確保に努めていきます。
特許取得地域については、開発を進捗させている日本及び米国に加え、今後、開発を進める予定の欧州、中国、カナダ、オーストラリア、香港、シンガポール等にて権利を取得済みであり、世界各地における製品販売に向けた基盤の整備を進めています。
≪SB623関連の特許取得地域≫
米国、日本、イギリス、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、カナダ、韓国、香港、オーストラリア、中国、シンガポール、他
(5)今後の展開
アクーゴ®の製造販売承認事項一部変更承認取得を行い、出荷解除を目指すとともに、製造・物流・販売体制の構築を着実に進めていきます。
また、「日本発の再生医療を世界へ」という創業時から変わらぬビジョンに原点回帰し、グローバル事業を再び進めていきます。最大市場となる米国を中心に据え、日本でのアクーゴ®の実績を基に、慢性期外傷性脳損傷については、米国規制当局と臨床試験の協議を再開しています。また、慢性期脳梗塞における新たな臨床試験の実施に向けても、日米の規制当局との協議を進める予定です。
このほか、SB623の適応疾患拡大として、すでに非臨床試験(In Vivo試験)で良好な結果が得られている網膜疾患(加齢黄斑変性、網膜色素変性等)、脊髄損傷、パーキンソン病といった疾患領域に関しては、臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施していきます。さらに、将来的には、アルツハイマー病やその他の疾患について、非臨床試験(In Vivo試験)で適応可能性について検討していきます。
<用語解説>
番号 |
用語 |
意味・内容 |
1 |
マイルストン |
医薬品を開発する際に段階的に設定される、開発状況の進捗の節目のこと。 |
2 |
ライセンスアウト |
自社の開発権、販売権などの権利を他社に使用許諾すること。 |
3 |
ロイヤルティ |
医薬品販売後に、医薬品の売上高に応じて権利の保有者に支払われる使用料のこと。 |
4 |
上市 |
研究開発を経て承認された新薬を、製品として市場に出すこと。 |
5 |
細胞治療薬 |
健康成人骨髄液由来の間葉系間質細胞を加工・培養して作製されたヒト(他家)骨髄由来加工間葉系幹細胞です。脳内の損傷した神経組織に移植するとFGF-2(タンパク質の一種)が放出され、損傷した神経細胞が本来持つ再生能力を促し、神経細胞の増殖・分化を促進する効果が期待されています。細胞治療薬は、主に自家(じか)と他家(たか)に分けられますが、他家細胞治療薬は細胞提供者(ドナー)から採取した細胞を大量培養して治療薬を製造するため、量産化が可能で多くの患者さんへ治療薬を提供することができます。 |
6 |
細胞調製 |
ヒト幹細胞等に対して、その細胞の本来の性質を改変しない操作や加工(人為的な増殖、細胞の活性化を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変操作など)を施す行為をいう。 |
7 |
フェーズ |
有効性と安全性を調べるための臨床試験(治験)における段階のこと。フェーズ1からフェーズ3の3段階がある。 |
8 |
米国食品医薬品局(FDA) |
U.S. Food and Drug Administration。食品や医薬品等の許可や取締り等の行政を行う、アメリカ合衆国の政府機関のこと。 |
9 |
分注 |
一定量で少量ずつに分けること。 |
10 |
免疫抑制剤 |
免疫系の活動を抑制するための薬剤。主に拒絶反応の抑制に用いられる。 |
11 |
神経栄養因子 |
神経細胞へ栄養を送り届け、神経の機能の維持や成長などの要因となっているもの。 |
12 |
細胞外マトリクス |
生体組織のうち細胞以外の部分。単なる構造体でなく、細胞の挙動に多大な影響を与える生物学的機能も有しているもの。 |
13 |
パイプライン |
新薬誕生に結びつく開発中の医療用医薬品候補化合物(新薬候補)。 |
14 |
INDミーティング |
Investigational New Drug Exemption。前臨床試験から臨床試験に移行しようとしている新医薬品候補品目について、前臨床試験結果等の情報をまとめた資料、すなわち、臨床試験実施のための申請資料を提出することを指す。臨床試験の開始に際して、INDを提出し、米国食品医薬局より試験実施の承諾を得ることが義務付けられている。 |
15 |
先駆け審査指定制度 |
2014年6月に厚生労働省における「世界に先駆けて革新的医薬品等の実用化を促進するための省内プロジェクトチーム」において発表された「先駆けパッケージ戦略」に基づき新たに設けられた制度であり、世界に先駆けて日本で開発され、早期の治験段階で顕著な有効性が見込まれる革新的な医薬品について、優先審査をする制度。 |
番号 |
用語 |
意味・内容 |
16 |
RMAT |
Regenerative Medicine Advanced Therapy。米国における21st Century Cures Act(21世紀治療法)のもとに設立され、アンメットメディカルニーズがある重篤な疾患に対する再生医療であり、臨床試験において一定の効果を示した治療法を対象として、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)より指定されるもの。 |
17 |
欧州医薬品庁(EMA) |
European Medicines Agency。EUにおいて医薬品認可制度が施行された1995年にロンドンに設置されたEUの機関であり、人間及び動物用医薬品の評価及び管理を行う。 |
18 |
先端医療医薬品(ATMP) |
Advanced Therapy Medicinal Product。遺伝子、組織、又は細胞に基づいたヒト用の薬であり、指定については EMA の先進療法委員会(Committee for Advanced Therapies:CAT)によって決定される。ATMPを用いた治療は、その病気や怪我の治療に対し画期的で新しい好機を提供する。 |
19 |
医薬品医療機器総合機構 (PMDA) |
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency。医薬品の副作用又は生物由来製品を介した感染等による健康被害の救済を図り、医薬品等の品質、有効性及び安全性の向上に資する審査等の業務を行う、厚生労働省所管の独立行政法人。 |
サンバイオグループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在においてサンバイオグループが判断したものであります。
(1)経営方針
会社の経営の基本方針
再生細胞医薬品の研究開発及び製造を営むサンバイオグループは、「再生医療の開発を通して、患者さんをはじめとしたステークホルダーの皆さまへ価値を提供する」ことをコーポレート・ミッションに掲げ、再生医療分野でのグローバルリーダーを目指し、再生細胞医薬品の研究開発に取り組んでいます。早期に開発品の上市を実現することにより、一日も早く患者さんのQOL(Quality of Life)向上に寄与し、豊かで幸せな社会の実現に貢献していきます。
(2)経営戦略等
①目標とする経営指標
サンバイオグループでは、一日も早い再生細胞医薬品の上市を実現するため、研究開発から臨床開発、そして市販後を見据えた製造販売体制の樹立まで一連のプロセスを確実かつスピーディに推進していくことが、最も重要な経営課題と考えています。現在、サンバイオ独自の再生細胞薬であるSB623については、国内慢性期外傷性脳損傷を対象とした開発プログラムを最優先に進めていますが、今後、他のパイプラインの推進、拡充を図っていくことも、経営の安定化及び企業価値の増大に不可欠です。従いまして、研究開発段階にある現在のサンバイオグループにおいては、ROAやROEといった経営指標を目標とはせず、開発プログラムの進捗及びパイプラインの拡充に目標をおき事業活動を推進しています。
②中長期的な経営戦略
サンバイオグループの中長期における最重要課題としては、まずは慢性期外傷性脳損傷を対象とした再生細胞薬SB623の製造販売承認取得を早期に実現し患者の皆さまへ提供することですが、当該SB623は、慢性期外傷性脳損傷以外にも、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、網膜疾患、パーキンソン病、及び脊髄損傷といった他の中枢神経疾患へ適応拡大できるものと考えており、中長期的にはそれらのプログラムの開発を推進していく予定です。また、治験実施実績のある米国と日本以外の欧州やアジアといった他の地域への拡大も重要な経営戦略の一つであり、開発の進捗にあわせて適宜取り組んでいきます。また、SB623に続く再生細胞薬として、多発性硬化症疾患に対する候補薬等も保有しており、長期的にそれらの開発にも取り組む予定です。再生医療のグローバルリーダーを目指すサンバイオグループは、サンバイオ独自の再生細胞薬SB623の適応拡大及び地域の拡大、並びに新しい細胞医薬品のパイプライン拡充を通して、企業価値最大化を図っていきます。
(3)経営環境
日本の再生医療業界においては、2014年11月に施行された再生医療安全性確保法及び改正薬事法によって、再生医療の産業促進化が進むなか、2021年には過去最多となる5品目が再生医療等製品としての製造販売承認を取得しました。また、米国においては、2016年12月に可決された21st Century Cures Act(21世紀治療法)のもと、重篤な疾患の治療を目的とした再生医療製品の迅速承認を可能とするRMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy)指定制度が設けられ、2021年にはRMAT指定品目として初のBLA(Biologics License Application)承認取得を含むRMAT指定3品目がBLA承認を取得しました。2023年にはRMAT指定4品目がBLA承認を取得し、17品目が新たにRMAT指定を受けました。このように、2023年は日本及び米国において再生医療の実用化に向けた継続的な進展が見られました。
(4)会社の対処すべき課題
全世界で再生医療の産業化が徐々に進むなか、各国でも国レベルの取り組みがされています。国内でも、再生医療を政府の成長戦略のひとつとして、この分野における科学・基礎研究への手厚い支援及び助成金の実施や、薬事法を改正し再生医療等製品への法制度の見直しが行われてきました。このような環境のなかで、サンバイオグループは、再生細胞医薬品SB623の製造及び販売の開始をグローバルで目指すため、次の対処課題に取り組んでいきます。
①国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの承認取得及び販売開始
国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムについては、2022年1月までに先駆け総合評価相談を終了し、2022年3月にサンバイオ初となる再生医療等製品製造販売承認申請(以下、「本申請」という。)を完了しました。本申請については、2024年3月25日開催の薬事食品衛生審議会 再生医療等製品・生物由来技術部会において、審議されました。審議の結果、臨床に関する論点については、臨床現場に提供する意義はあると評価されたため、承認取得に向けては品質に関する論点に絞られたものと認識しています。今後は、当局と協議し、品質に関する追加のデータ等を提出します。
②市販後の製造・物流・販売体制の構築
上述した国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの進捗状況を踏まえ、従来の医薬品とは性質の異なる再生医療等製品の安定供給及び適正使用の実現に必要な製造・物流・販売体制の構築を進めていきます。製造に関しては、品質の持続性確保に向けた活動に取り組んでいきます。物流に関しては、厳格な品質管理下で確実に製品を患者さまへお届けするための流通管理システム(R-SAT®システム)の株式会社スズケンとの共同開発を含む、安定供給体制の構築を進めていきます。また、医療機関への製品情報提供資材の作成及び提供体制の整備、患者適格性判定システムの開発等、適正使用推進体制の構築に努めていきます。
③研究開発パイプラインの進捗・拡充
研究開発型企業における事業の継続的な成長のために重要な研究開発パイプラインの推進に向けて取り組みを進めていきます。SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムについては、上述の国内での承認取得後に、海外での臨床試験の開始について検討を進めていきます。SB623慢性期脳梗塞プログラム及び慢性期脳出血プログラムについては、国内における臨床試験の開始に向けての取り組みを海外に優先して進めていきます。その他の研究・非臨床試験段階のプログラムについては、引き続き、臨床試験の開始に向けたデータの取得に努めていきます。
④資金調達
サンバイオグループは、上記のとおり、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳梗塞及び慢性期脳出血を対象としたSB623の上市を加速するために、またそれ以外のパイプラインを進捗させるために、資金調達を確実に行っていく必要があります。そのため、サンバイオは、資金調達手段の確保・拡充に向けて、株式市場からの必要な資金の獲得や銀行からの融資、補助金、提携等を通じて、必要な資金調達の多様化を図っていきます。
⑤人材の獲得
サンバイオグループは、コア・コンピタンスとなる研究開発及び製造プロセスのデザイン等は自社で行い、臨床試験及びその治験薬自体の製造の業務等は外部協力業者を活用するなど効率的に行っています。現在は小規模組織での運営を行っていますが、開発の加速、市販後体制の構築、パイプラインの拡大・進捗等に応じて、今後も、適切かつ十分な人材の確保・維持に努めていきます。
サンバイオグループの事業運営及び展開等について、リスク要因として考えられる主な事項を以下に記載しております。中にはサンバイオグループとして必ずしも重要なリスクとは考えていない事項も含まれておりますが、投資判断上、もしくはサンバイオグループの事業活動を十分に理解する上で重要と考えられる事項については、投資家や株主に対する積極的な情報開示の観点からリスク要因として挙げております。
サンバイオグループはこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、サンバイオ株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクを全て網羅したものではなく、更にこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意頂く必要があると考えます。なお、文中の将来に関する記載は、当連結会計年度末現在においてサンバイオグループが判断したものであります。
(1)医薬品の研究開発、医薬品業界に関するリスク
①新薬開発の不確実性
医療用医薬品の開発には多額の研究開発投資と長い時間を要しますが、臨床試験で有効性や安全性を確認できないこと等により研究開発が予定通りに進行せず、開発の延長や中止の判断を行うことは稀ではありません。また、日本国内はもとより、海外市場への展開においては、各国の薬事関連法規等の法的規制の適用を受けており、新薬の製造及び販売には各国別に厳格な審査に基づく承認を取得しなければならないため、有効性、安全性、及び品質等に関する十分なデータが得られず、予定していた時期に上市ができず延期になる、又は上市を断念する可能性があります。これはサンバイオグループのパイプラインを他社にライセンスアウトした場合も同様であり、サンバイオグループが研究開発を行った医療用医薬品候補及び他社にライセンスアウトした医療用医薬品候補の上市が延期又は中止された場合、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
②再生細胞薬の開発・製造に関するリスク
イ.先端医療に関する事業であることに由来するリスク
再生細胞薬は世界的にまだ本格的な普及段階に至っておらず、日本国内では現在でも再生細胞薬が属する再生医療等製品として当局から製造販売承認を受けたものは20品目に限られ、現時点では主に特定の医療機関や研究機関が用いる高度な医療技術として比較的限定された範囲で使用されております。
こういった現状の背景には、最先端の医療・医薬品に特有の課題やリスクが存在します。まず再生細胞薬の基盤となる学問や技術が急速な進歩を遂げている中で再生細胞薬そのものに関する研究開発も非常に速いスピードで進んでおり、日々新しい研究開発成果や安全性・有効性に関する知見が生まれてきております。サンバイオグループの基盤技術である同種移植の再生細胞薬は現時点では新規性の高い再生医療技術であり、また学術的に見ても安全性・有効性・応用可能性ともに他の再生細胞薬よりも優れていると自負しておりますが、一方で常に急激な技術革新の波に追い越されるリスクや製造・安定供給面でのリスク、想定していない副作用が出るリスクが存在し、またそのためにサンバイオグループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ロ.法規制改正・政府推進政策等の変化に由来するリスク
再生細胞薬に関連する法規制についても、最新の技術革新の状況に対応すべく常時変更や見直しがなされる可能性があります。例えば、法律・ガイドライン等の追加・改正により、これまで使用が認められてきた原材料が突然全く使用できなくなるといったリスクやサンバイオグループの想定通りの内容で薬事承認が下りない又は薬事承認の取得に想定以上の時間を要するといったリスクも否定できません。法律に違反した場合あるいは規制の新設・強化や想定外の適用等に事業活動が抵触するようになった場合、監督当局による行政処分、訴訟対応、事業活動の停止、企業の信用失墜の可能性があります。また世界的な医療費抑制の流れの中で、サンバイオが想定している製品価値よりも低い薬価・保険償還価格となる可能性もあります。当然このような場合には、サンバイオグループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また現在、米国や日本をはじめとする医療先進国においては先端医療に係る各種の推進政策が実施されております。これらの推進政策は、サンバイオが推進する再生細胞薬に大きな影響を与える可能性がありますが、その影響の内容・大きさはまだ定かではないことから、サンバイオグループの今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ハ.ヒト又は動物由来の原材料の使用に関するリスク
サンバイオグループの再生細胞薬はヒト細胞・組織を利用したものであり、利用するヒト細胞・組織に由来する感染の危険性を完全に排除し得ないことなどから安全性に関するリスクが存在するとされています。またサンバイオグループの再生細胞薬は、原材料や製造工程で使用する培地に動物由来原料を使用しており、この動物由来原料の使用によって未知のウイルスによる被害等が発生する可能性を否定できません。サンバイオの再生細胞薬を患者の体内に移植することにより、そのような事態が発生した場合、サンバイオグループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
③副作用発現、製造物責任
医薬品には、臨床試験段階から更には上市後において、予期せぬ副作用が発現する可能性があります。サンバイオグループは、こうした事態に備えて、各種賠償責任に対応するための適切な保険に加入しておりますが、最終的にサンバイオグループが負担する賠償額の全てに相当する保険金が支払われる保証はありません。また、サンバイオグループに対する損害賠償の請求が認められなかったとしても、請求等がなされたこと自体によるネガティブイメージにより、サンバイオグループ及びサンバイオグループの製品に対する信頼に悪影響が生じる可能性があります。これら予期せぬ副作用が発現した場合、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響が及ぶ可能性があるとともに、社会的信頼の失墜を通じてサンバイオグループの事業展開にも重大な影響を及ぼす可能性があります。
④競合
医薬品業界は、国際的な巨大企業を含む国内外の数多くの企業や研究機関等による激しい競争状態にあり、その技術革新は急速に進んでいる状況であります。これら競合相手との競争において必ずしもサンバイオグループが優位性をもって継続できるとは限らず、研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動における競争の結果により、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑤医療費抑制策
サンバイオグループの再生細胞薬SB623の最重要ターゲットである米国において、2010年3月に改定された医療保険改革法案等による先発医薬品への価格引下げ圧力のほか、低価格のジェネリック医薬品の使用促進も進んでいます。また、日本国内においても、政府は増え続ける医療費に歯止めをかけるため、医療費の伸びを抑制していく方針を示しており、定期的な薬価引き下げをはじめ、ジェネリック医薬品の使用促進等が進んでいます。今後の医療費政策の動向がサンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑥外部協力業者への依存
サンバイオグループは、コア・コンピタンスとなる研究開発及び製造プロセスのデザイン等は自社で行いますが、非臨床試験や臨床試験の実施及び再生細胞薬の製造業務等はCRO(医薬品開発業務受託機関)やCMO(医薬品製造受託機関)といった外部協力業者に委託しています。外部協力業者とは、サンバイオグループの事業活動に必要な支援を得られるよう、契約及び密なコミュニケーションを通して、強固な協力体制を構築しています。しかしながら、外部協力業者の置かれている事業環境の変化等により、サンバイオグループの望む支援が得られない事態が生じた場合には、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(2)事業遂行上のリスク
①収益モデルの不確実性
サンバイオグループは、大手製薬企業等との共同開発及び販売権ライセンスアウトによる収益モデルを基本とした事業を遂行しています。
しかしながら、このような収益モデルは、相手先企業の経営方針の変更や経営環境の極端な悪化等の、サンバイオがコントロールし得ない何らかの事情により、期間満了前に終了する可能性があります。今後、このような収益モデルで事業が遂行された場合において、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、製品上市前の収益モデルとして、所定の成果達成に基づくマイルストン収益を見込む場合がありますが、この発生時期は開発の進捗に依存した不確定なものであり、開発の進捗次第で、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、サンバイオグループでは今後、この収益モデルによる不確実性を低減させるため、複数のパイプラインをライセンスアウトしていく方針ですが、それらの収益化についても、開発の進捗に依存した不確実なものであり、これらの開発に遅延が生じた場合には、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
②小規模組織及び少数の事業推進者への依存
サンバイオグループは、2024年1月末現在、取締役3名、監査役3名(非常勤監査役2名を含む)及び従業員29名の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっています。今後、業容拡大に応じて内部管理体制の拡充を図る方針であります。
また、サンバイオグループの事業活動は、サンバイオグループの創業者である代表取締役会長川西徹及び代表取締役社長森敬太をはじめとする現在の経営陣、事業を推進する各部門の責任者及び少数の研究開発人員に強く依存するところがあります。そのため、常に優秀な人材の確保と育成に努めていますが、人材確保及び育成が順調に進まない場合、並びに人材の流出が生じた場合には、サンバイオグループの事業活動に支障が生じ、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
③知的財産権
サンバイオグループでは研究開発をはじめとする事業展開において様々な知的財産権を使用しており、これらはサンバイオ所有の権利であるか、あるいは適法に使用許諾を受けた権利であるものと認識しています。
また、サンバイオグループが保有している現在出願中の特許が全て成立する保証はありません。さらに、特許が成立した場合でも、サンバイオグループの研究開発を超える優れた研究開発により、サンバイオグループの特許に含まれる技術が淘汰される可能性は常に存在しています。サンバイオグループの特許権の権利範囲に含まれない優れた技術が開発された場合には、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、サンバイオグループでは他社の特許権の侵害を未然に防止するため、サンバイオグループとして必要と考える特許の調査を実施しており、これまでに、サンバイオグループの開発パイプラインに関する特許権等の知的財産権について第三者との間で訴訟が発生した事実はありません。しかし、サンバイオグループのような研究開発型企業にとって知的財産権侵害の問題を完全に回避することは困難であり、第三者との間で知的財産権に関する紛争が生じた場合には、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
④再生細胞薬SB623の日本における外傷性脳損傷適用での承認取得予定時期
サンバイオグループは、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいて、2024年3月25日開催の薬事食品衛生審議会 再生医療等製品・生物由来技術部会における審議結果を踏まえて、再生医療等製品としての製造販売承認の早期取得に向けて、当局と協議し、品質に関する追加のデータ等を提出していく予定です。しかしながら、規制当局による審査の過程で何らかの予期せぬ事態が生じる等により、サンバイオの想定通りに進まなかった場合には、サンバイオグループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑤SB623市販後の製造・物流・販売体制の構築
サンバイオグループは、日米の慢性期外傷性脳損傷プログラムの開発状況を踏まえ、SB623市販後の製造・物流・販売体制の構築に着手しています。
しかしながら、SB623はヒト又は動物由来の原材料を使用し、新規性の高い再生医療技術に基づき製造される再生細胞薬であるため、一連の体制の構築において何らかの予期せぬ事態が生じる等により、サンバイオの想定通りに進まなかった場合には、サンバイオグループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(3)業績等に関するリスク
①マイナスの繰越利益剰余金の計上
サンバイオグループは、医薬品の研究開発を主軸とするベンチャー企業であります。医薬品の研究開発には多額の初期投資を要し、その投資資金回収も他産業と比較して相対的に長期に及ぶため、ベンチャー企業が当該事業に取り組む場合は、一般的に期間損益のマイナスが先行する傾向にあります。サンバイオグループも、提携締結や開発の進捗に応じて契約一時金や開発マイルストンなど一時的に収益が計上されることがあるものの、開発中の新薬の販売が開始されるまでは事業収益、当期純利益(損失)は不安定に推移する可能性があります。
サンバイオグループは、SB623を始めとするパイプラインの開発を推し進めることにより、将来の利益拡大を目指しています。しかしながら、開発の進捗や結果によっては、将来において計画通りに当期純利益を計上できない可能性もあります。また、サンバイオ事業が計画通りに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、繰越利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。
②収益計上が大きく変動する傾向
サンバイオグループの事業収益は、SB623を始めとする現在開発中のパイプラインのライセンスアウト時の契約一時金及び開発進捗に伴うマイルストン収入の有無に大きく影響されるため、その計上時期や金額によっては事業収益、当期純利益(損失)は不安定に推移する可能性があります。この傾向は、現在開発中のパイプラインが上市され安定的な収益基盤となるまで続くと見込まれます。
③資金繰り
サンバイオグループは、研究開発型企業として多額の研究開発資金を必要とし、また研究開発費用の負担により長期にわたって先行投資の期間が続きます。この先行投資期間においては、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。サンバイオグループも営業キャッシュ・フローのマイナスが続いており、かつ現状では安定的な収益源を十分には有しておりません。
また、サンバイオグループの借入金には貸出コミットメント契約が含まれており、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結貸借対照表関係)」に記載の一定の財務制限条項及びその他の遵守事項が設定されています。これらのうちいずれかに抵触しかつサンバイオが期限の利益の喪失を回避するための手段を取ることができない場合、サンバイオグループは当該借入金にかかる期限の利益を喪失し、サンバイオグループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
毎事業年度末時点では、翌期の事業計画に照らして十分な現金及び預金を保有しておりますが、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務基盤の強化を図る方針です。必要なタイミングで資金を確保できなかった場合は、サンバイオグループの事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。
④調達資金使途
サンバイオグループは上場時の公募増資により調達した資金に加え、その後の間接金融や補助金の獲得などにより、医薬品の研究開発・SB623市販後の製造・物流・販売体制構築を中心とした事業費用に充当してきておりますが、新薬開発に関わる研究開発活動の成果が収益に結びつくには長期間を要する一方で、研究開発投資から期待した成果が得られる保証はなく、また予期せぬ事態によりサンバイオの計画に遅延が生じる場合もあり、その結果、充当した資金が期待される利益に結びつかない可能性があります。
⑤新株発行による資金調達
サンバイオグループは医薬品の研究開発型企業であり、将来の研究開発活動の拡大を見込み、増資を中心とした資金調達を機動的に実施していきます。2024年1月末日時点では、2022年11月15日に発行した第三者割当による行使価額修正条項付第34回新株予約権(行使指定・停止指定条項付)が行使途中であり、未行使の新株予約権が行使された場合は、新たに700千株の新株式が発行され、サンバイオの1株当たりの株式価値は希薄化する可能性がありましたが、その後2024年2月26日に行使がすべて完了しています。
⑥新株予約権
サンバイオグループは、サンバイオ取締役、監査役、従業員、サンバイオ子会社従業員及び社外協力者の業績向上に対する意欲や士気を高め、また優秀な人材を確保する観点から、ストック・オプション制度を採用しています。会社法第236条、第238条及び第239条の規定に基づき、株主総会の承認を受け、サンバイオ取締役、監査役、従業員、サンバイオ子会社従業員及び社外協力者に対して新株予約権の発行と付与を行っています。
2024年1月末日現在におけるサンバイオの発行済株式総数は67,929千株であり、これら新株予約権の権利が行使された場合は、新たに193千株の新株式が発行され、サンバイオの1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。また、今後も優秀な人材の確保のため、同様のインセンティブ・プランを継続する可能性があります。従って、今後付与される新株予約権が行使された場合にも、サンバイオの1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。
⑦配当政策
医薬品の研究開発には多額の初期投資を要し、その投資回収も長期に及ぶ傾向にあり、サンバイオグループも、提携締結や開発の進捗に応じて契約一時金や開発マイルストンなど一時的に収益が計上されることがあるものの、開発中の新薬の販売が開始されるまでは、業績は不安定に推移することが予想されます。
このような状況下においては、開発に優先的に経営資源を投入し早期に承認取得を実現することが企業価値向上、ひいては株主利益の最大化に繋がるものと考えています。
2024年1月期においては、会社法の規定上、配当可能な財政状態にはありません。また、翌連結会計年度についても配当は実施しない予定としております。
株主への利益還元については重要な経営課題と認識しており、将来、SB623をはじめとする現在開発中の新薬が上市され、その販売によって当期純利益が計上される時期においては、経営成績及び財政状態を勘案しながら、配当による利益還元の実施を検討したいと考えております。
⑧為替変動
サンバイオグループの主たる事業である新薬の研究開発は、現在、米国子会社を中心として活動しております。米国子会社の取引通貨は米ドルであり財務諸表も当該通貨で作成されます。従いまして、連結財務諸表を作成する過程において、当該財務諸表は、外貨建取引等会計処理基準に沿って日本円に換算されるため、大幅な為替相場の変動があった場合には、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑨国際税務に関連するリスク
サンバイオグループは、2014年1月の「親子逆転」により、日本法人であるサンバイオ、米国法人であるSanBio, Inc.より構成される資本関係となっております。このため、親子間の資本関係や取引関係から生ずる課税上の取扱いについては、国際税務、具体的には日米両国の税法及び日米租税条約の適用を受けることとなります。
上記のとおり、サンバイオグループは、各国の税務につき、税理士等の専門家と顧問契約を締結し、サンバイオグループに適用される税法に関して情報を収集し税務リスクの確認及び排除に努めておりますが、国際税務は複雑なため、サンバイオグループに不利となる税務事象の発生の可能性、及び将来的にサンバイオグループに不利となる国際税務関連の税制改正が行われる可能性を否定できません。その場合は、将来の税負担額が増加し、サンバイオグループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
※金融庁に提出された有価証券報告書のデータを使用しています。
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