株価や為替は、上がり続けたり下がり続けたりするだけではなく、途中で必ず「一休み(押し・戻り)」をはさみながら動きます。フィボナッチ・リトレースメントは、その一休みが「どのあたりで止まりそうか」の目安を、チャートに横線で示してくれる道具です。このページでは、はじめての人でも使えるように、線の意味・引き方・使い方・注意点を図を使って順番に説明します。
1. フィボナッチ・リトレースメントとは
「リトレースメント(retracement)」は英語で「引き返し・後戻り」という意味です。上昇していた株価が少し下がる(押し目)、下落していた株価が少し上がる(戻り)ときに、それまでに動いた値幅の何%くらい引き返すかを見るのがフィボナッチ・リトレースメントです。
使う比率(23.6%・38.2%・61.8%など)は、イタリアの数学者フィボナッチにちなむ「フィボナッチ数列(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34…)」から生まれた数字です。となり同士の数の比が約0.618(61.8%)に近づくことから、黄金比とも関係があるといわれます。
ポイント
フィボナッチ・リトレースメントは「必ずここで止まる」という予言ではありません。多くの投資家が同じ線を見ているので、その価格で売買が集まりやすい——だから目安として役に立つ、という道具です。
2. 23.6%・38.2%・50%・61.8%の意味
チャートにフィボナッチ・リトレースメントを表示すると、次のような横線が引かれます。それぞれの線は「上昇(下落)した値幅のうち、何%引き返したか」を表しています。
| 比率 | 押し・戻りの深さ | 見方の目安 |
|---|---|---|
| 0% | 引き返していない | 直近の高値(上昇のとき)/安値(下落のとき) |
| 23.6% | とても浅い | 勢いが非常に強いトレンドでは、ここで止まってすぐ再開することがある |
| 38.2% | 浅い押し・戻り | よく意識される線。トレンドが強いときの押し目・戻りの目安 |
| 50% | 半値押し・半値戻し | フィボナッチ数列由来ではないが、「半値」として昔から意識される重要な線 |
| 61.8% | 深い押し・戻り | 最も重要といわれる線。ここで止まらないとトレンド転換の可能性が高まる |
| 78.6% | かなり深い | 最後の防衛ライン。ここを割るとトレンドはほぼ終わりと考えることが多い |
| 100% | 全部引き返した | 上昇(下落)のスタート地点まで戻った状態 |
初心者はまず3本だけ覚えればOK
38.2%(浅い)・50%(ふつう)・61.8%(深い)の3本をまず覚えましょう。「38.2%で止まれば強いトレンド」「61.8%も割れたらトレンドが崩れたかも」と覚えておくと、チャートの見え方が変わります。
3. 線の引き方(上昇トレンド・下降トレンド)
フィボナッチ・リトレースメントは、「どこからどこまでの値動きを基準にするか」を決めるのがいちばん大切です。基準は、目立つ安値と高値(山と谷)を1組選びます。
上昇トレンドの場合(押し目を探す)
- 上昇が始まった安値(A)を見つけます。
- そこから上がった先の高値(B)を見つけます。
- AとBを結ぶと、高値B側が0%、安値A側が100%となり、その間に23.6%・38.2%・50%・61.8%の線が引かれます。
- 株価が高値Bから下がってきたとき、どの線で下げ止まるかを見ます。
下降トレンドの場合(戻りを探す)
- 下落が始まった高値(A)を見つけます。
- そこから下がった先の安値(B)を見つけます。
- AとBを結ぶと、安値B側が0%、高値A側が100%となります。
- 株価が安値Bから上がってきたとき、どの線で上げ止まるか(戻りの限界)を見ます。
基準の選び方のコツ
- だれが見ても「ここが安値(高値)だ」とわかる、目立つ山と谷を選びましょう。小さなギザギザを基準にすると、線の意味が弱くなります。
- 日足なら数週間〜数か月、分足なら数時間程度のひとまとまりの値動きを選ぶのが基本です。
- 高値(安値)を更新したら、基準も引き直します。
4. 価格の計算方法
チャートツールが自動で線を引いてくれますが、計算のしくみを知っておくと理解が深まります。
上昇トレンドの押し目の価格
高値 −(高値 − 安値)× 比率
下降トレンドの戻りの価格
安値 +(高値 − 安値)× 比率
計算例:安値1,000円 → 高値1,500円まで上昇した株
上昇した値幅は 1,500 − 1,000 = 500円 です。
| 比率 | 計算 | 押し目の目安 |
|---|---|---|
| 23.6% | 1,500 − 500 × 0.236 | 1,382円 |
| 38.2% | 1,500 − 500 × 0.382 | 1,309円 |
| 50% | 1,500 − 500 × 0.5 | 1,250円 |
| 61.8% | 1,500 − 500 × 0.618 | 1,191円 |
| 78.6% | 1,500 − 500 × 0.786 | 1,107円 |
この株が1,500円から下がってきたら、「まずは1,309円(38.2%)、次に1,250円(50%)、深くても1,191円(61.8%)あたりで下げ止まるかもしれない」と考えることができます。
5. 実際の使い方(押し目買い・戻り売り)
① 押し目買いの目安にする(上昇トレンド)
上昇トレンド中に株価が下がってきたら、38.2%・50%・61.8%の線の近くで下げ止まるサインが出るかを見ます。たとえば次のようなサインです。
- 線の近くで長い下ヒゲのローソク足が出た
- 線の近くで陽線のつつみ線(前日の陰線を包む大きな陽線)が出た
- 線を一度割り込んでも、すぐに終値で線の上に戻った
サインが出てから買うと、「線で止まらずにそのまま落ちていく」失敗を減らせます。
② 戻り売りの目安にする(下降トレンド)
下降トレンド中に株価が上がってきたら、38.2%・50%・61.8%の線の近くで上げ止まるサイン(長い上ヒゲ、陰線のつつみ線など)が出るかを見ます。信用取引の「信用売り」や、FXの「新規売り」の目安になります。
③ 損切りの位置を決める
フィボナッチ・リトレースメントは、「どこで間違いを認めるか」を決めるのにも便利です。
- 50%で押し目買いをしたなら、61.8%を終値で割ったら損切り
- 61.8%で押し目買いをしたなら、78.6%(または安値A)を割ったら損切り
買う前に損切りの位置を決めておくと、大きな損を防げます。
④ 利益確定の目安にする
押し目で買ったあとは、直前の高値(0%)が最初の利益確定の目安になります。高値で上値が重くなることが多いため、一部だけ利益を確定しておく方法もあります。
6. よくある失敗と注意点
注意1:線で「必ず」止まるわけではない
フィボナッチの線は「止まりやすい目安」です。線に来たらすぐ買う(売る)のではなく、止まったことを確認してから動くのが基本です。
注意2:基準の山と谷を変えると線も変わる
どの安値・高値を選ぶかで線の位置は大きく変わります。都合のよい線を探して何度も引き直すのではなく、目立つ山と谷を使いましょう。
注意3:トレンドがないときは役に立ちにくい
横ばい(レンジ相場)では、上下に細かく動くだけで線の意味が薄れます。はっきりした上昇・下落のあとに使うのが効果的です。
注意4:決算や経済指標の発表では線が無視されやすい
決算発表・業績修正・重要な経済指標などで大きなニュースが出ると、線に関係なく一気に動くことがあります。発表の予定は事前に確認しておきましょう。
7. ほかの指標と組み合わせる
フィボナッチ・リトレースメントは、ほかの目安と同じ価格帯に重なると信頼度が高まります。
- サポート・レジスタンスライン:過去に何度も反発した価格と、38.2%や61.8%が重なる
- 移動平均線:25日移動平均線や75日移動平均線と、50%や61.8%が重なる
- キリのよい価格:1,000円・5,000円などの節目と重なる
- 出来高:線の近くで出来高が増えて下げ止まると、買いが入っている証拠になりやすい
このように根拠が2つ以上重なるところを狙うと、無駄な売買を減らせます。
8. よくある質問
- フィボナッチ・リトレースメントは株とFXのどちらでも使えますか?
- どちらでも使えます。株・FX・仮想通貨・商品など、チャートがあるものなら同じ考え方で使えます。日足・週足・分足など、時間足を問わず使えます。
- どの比率がいちばん大事ですか?
- 一般的には61.8%が最も重要といわれ、次に38.2%と50%がよく意識されます。まずはこの3本を中心に見ましょう。
- 61.8%を割り込んだらどう考えればいいですか?
- 61.8%(さらに78.6%)を終値ではっきり割り込むと、それまでのトレンドが終わった可能性が高まります。押し目買いをしていたなら、損切りを考える場面です。
- どの安値と高値を選べばいいかわかりません。
- チャートを少し離れて見て、「ここから上がった」「ここで止まった」とひと目でわかる山と谷を選びます。迷ったら、表示しているチャートの中のいちばん安い値と高い値を基準にするのがかんたんです。
- フィボナッチ・エクスパンション(エクステンション)とは違うのですか?
- リトレースメントは「どこまで引き返すか(押し目・戻り)」の目安、エクスパンションは「押し目のあと、どこまで伸びるか(目標価格)」の目安です。初心者はまずリトレースメントから覚えるのがおすすめです。
9. チャートで練習してみよう
フィボナッチ・リトレースメントは、本を読むだけでなく実際のチャートで何度も見ることで身につきます。カブトレの練習ページでは、過去の本物のチャートを動かしながら「フィボナッチ」ボタンで線を表示し、押し目買い・戻り売りを仮想のお金で練習できます(会員登録不要・無料)。
- 練習ページを開き、チャートの下の「フィボナッチ」ボタンを押します(表示中のチャートの最高値・最安値から自動で線が引かれます)。
- 「手動スクロール」でチャートを1本ずつ進め、株価がどの線で止まるかを観察します。
- 線の近くで下げ止まりのサインが出たら「買い」、損切りは次の線の下、と決めて練習します。
- 「サポート・レジスタンス」ボタンも一緒に表示すると、線が重なる価格帯がわかります。
まとめ
- フィボナッチ・リトレースメントは、押し目・戻りがどこで止まりそうかの目安を示す
- まずは38.2%・50%・61.8%の3本を覚える
- 上昇なら「安値→高値」、下降なら「高値→安値」の目立つ山と谷を基準にする
- 線に来たらすぐ売買せず、止まったサインを確認してから
- 次の線を割ったら損切り、と先に決めておく
- サポート・レジスタンスや移動平均線と重なる価格帯は特に意識されやすい
※このページはテクニカル分析の一般的な考え方を説明したもので、特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。